群馬県太田市に行った。
法要のお手伝いをするためだ。
仕事は坊主なのである。
儀式が終了したのは15時頃だった。
「赤城山に行ってみよう」
9月上旬のことである。
日暮までには、まだ余裕がある。
高地ならば涼しいかもしれない。
東京へ戻る前に寄り道をすることにした。
早速、車を北西に向けた。
まずは、渡良瀬川に沿って走る。
運転していると、ふっと、社会科の授業を思い出した。
足尾鉱毒事件を習った記憶がよみがえった。
明治時代に渡良瀬川が汚染されてしまった。
足尾銅山での採掘により、鉛、銅、カドミウムなどが流れ込んだ。
川にいた魚は絶滅した。
周りの農地も大打撃を受けた。
(来年は足尾を見学に行こう)
やがて、上毛鉄道の踏切を渡り左折する。
だんだんと道に傾斜がでてきた。
山の裾野となってきた。
やや迷走しながらも「からっ風街道」に入った。
名前がつくほどである。
さぞかし冬は乾燥するのであろう。
しかし、只今は「蒸している」の一言である。
ただし、私は極度の乾燥肌だ。
高湿度は嫌いではない。
(なんだ?)
しばらくすると、独特なにおいがしてきた。
空気がよいので窓を開けていた。
(なるほど)
すぐに理由がわかった。
牛舎があった。
安全なところに車を停めた。
お仕事の邪魔になってはいけない。
そっと歩道から牛舎内をのぞいてみた。
「モ~」
あちらこちらで声がする。
ながめていると、牛と目が合った。
……、ように感じた。
身体は大きい。
迫力がある。
しかし、目には優しさを感じた。
(いよいよだ)
本格的に山道となってきた。
「カーブ1」の標識が見えた。
「カーブ68」にて新坂平駐車場と出てきた。
標高1430メートルとあった。
車から降りた。
周りには誰もいない。
おもいきり深呼吸をする。
何度もする。
(……、帰らなくちゃ)
山を下りながら考える。
人の行い、人の営み、地方の自然、人工の都会などの言葉が浮ぶ。
無い頭ではグルグルまわる。
私は自分の移動のために100馬力を使っている。
お釈迦さまのお言葉です。
『論争を楽しみ、迷妄の性質に蔽(おお)われている修行僧は、目ざめた人(ブッダ)の説きたもうた理法を、説明されても理解しない。かれは無明に誘われて、修養をつんだ他の人を苦しめ悩まし、煩悩が地獄に赴く道であることを知らない』
【岩波文庫 ブッダのことば 中村元先生訳P61】
ありがとうございました。