寺の脇の公園にカブト虫がいた。
山門横の坂道を掃除しているときにみつけた。
今の寺に勤めて20年近くになる。
寺は都心のビル群の隙間にある。
こんなところで外にいるカブト虫をみかけたのは、初めてだ。
(逃げてきたのかな)
そうとしか考えられない。
マンションは何棟も建っている。
子供もそれなりには居るはずだ。
飼われていたに違いない。
(寿命を全うしてね)
通じるはずはない。
しかし、おもわず気持ちを伝えてしまった。
その後、数歩坂道を登った。
アスファルトの上を茶色い虫が移動していた。
蝉の幼虫である。
(昼間でも土から出てくるんだ)
脱皮は夜にするものだと思い込んでいた。
朝、卒塔婆の先端などに抜け殻が付いていることはよくある。
(無事に成虫になるんだよ)
やはり思わず声がでていた。
安全な所にたどりつくまで見とどけた。
今の寺の地面には土がある。
高い木も低い木も草むらもある。
だからであろうか。
虫はそれなりにいる。
バッタ、トンボ、蝶、コガネムシ、カマキリなどだ。
カエル、ミミズ、イモリなどもいる。
それでも昔と比べたら少なくなっているに違いない。
寺の周りはアスファルトに覆われているのである。
(そういえば)
昨年の六月、東北自動車道を走った。
栃木あたりでは夜になっていた。
夜に高速道路を走れば、沢山の虫がバンパーについてしまっても不思議ではない。
少なくとも30年前であれば確実についていたはずである。
ところが、昨年は虫が全く気にならなかった。
車の設計技術向上が理由の一因として考えられる。
だが、それにしても大違いである。
(かりに虫が減ったのだとしたら……)
短期間で極端に減ったことになる。
虫が生息できる環境の大変化が推測される。
(虫を食べる生き物たちも……)
都会にいると、人と人の「つながり」にばかり注意がいく。
しかし、「つながり」は人と人だけではない。
(さまざまな関係性にほころびが……)
もしそうであれば大事である。
お釈迦さまのお言葉です。
『眼について慎むのは善い。耳について慎むのは善い。鼻について慎むのは善い。舌について慎むのは善い。身について慎むのは善い。ことばについて慎むのは善い。心について慎むのは善い。あらゆることについて慎むのは善いことである。修行僧はあらゆることがらについて慎み、すべての苦しみから脱れる』
【岩波文庫 ブッダの真理のことば・感興のことば 中村元先生訳P60】
ありがとうございました。