竿石 | 「ゆるりと仏教」いも掘り坊主の与太話

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「念死念仏 常途用心」
仏さまの御教えを、拙僧のエッセイとともに紹介しています。
ほとんど与太話(^_^;)ですが、法話らしきものも書いています。
つたない文章ですが、笑ってもらえたり、うなずいてもらえたりしたら嬉しいです。
毎週水曜日に更新しています。

墓地の掃除をしていた。

 

お盆の後片付けである。

 

寺に勤めていると掃除仕事は多い。

 

ここ数日は暑かった。

 

日差しは強烈だった。

 

その為、墓石の花立ての水はすぐにお湯になる。

 

飾られた花は一日二日で枯れてしまう。

 

夏なのだから仕方がない。

 

枯れた花は、まず、花切ばさみで細かく刻む。

 

それからゴミ袋に収めていく。

 

お盆中は雨が降った。

 

このため、草がちらほら生えてきていた。

 

お盆の最中には、じっくりと草むしりに取り組めない。

 

そこで、花を処理した後、草引きに取りかかった。

 

(暑いな~)

 

坊主頭には直射日光がこたえる。

 

手ぬぐいを頭上に巻いて熱射対策をする。

 

(ジリジリしてきたぞ)

 

一時間ほどで、首筋が焼けてきてしまった。

 

頭頂は守った。

 

だが、首筋への策は忘れていた。

 

(そろそろ休憩しよう)

 

開始から三時間経っていた。

 

汗がとまらない。

 

水分補給をしておかなければならない。

 

(気力はもう少し残っている)

 

最後に掃き掃除をすることにした。

 

(あれっ?)

 

まもなく、ある墓石の異変に気がついた。

 

竿石が3センチ程ずれていた。

 

お盆の前は正常だったはずだ。

 

竿石とは墓石の先端部分である。

 

「〇〇家先祖代々」などと刻まれているところだ。

 

(地震なんてあったかな?)

 

その場合、他の石にも影響があるはずだ。

 

(ん~)

 

ほかの墓石をみまわした。

 

異常がなかった。

 

有難いことに地盤は大変強い。

 

十年程前、東日本大震災があった。

 

この時にも、墓石の被害は一基もなかった。

 

(ならば人が寄りかかったか?)

 

ただ、そうなると竿石の根元を押さなければならない。

 

(そんな怪力な人はいるのか?)

 

てっぺんを押せば、あるいは動かせるかもしれない。

 

しかし、それでは竿石が倒れてしまうはずだ。

 

(いずれにしもて、なおさなければ)

 

竿石が落ちてしまったら大事である。

 

その場で石屋さんに連絡をした。

 

まもなく職人さんが来てくれた。

 

「妙だね~」

 

専門家でも原因が判然としなかった。

 

(なにかの奇瑞だろうか?)

 

そういえば、こちらのお墓をお参りしている人を見かけることは滅多にない。

 

 

日本霊異記の記録です。

 

『その痛み叫ぶ声は毎晩やまなかった。信行はじっとしていられなかった。起きてうかがい見ると、うめき声は鐘突き堂からであった。まさしくまだ造り終わらない像であることがわかった。信行はそれを見て、一度は不思議がり、一度は悲しんだ。当時、左京の元興寺の僧・豊慶が、いつもその堂に住んでいた。僧・豊慶をおこそうと戸をたたいて、「もし、大和尚さま、起きて仏像のうめき声をお聞きください」と申して、こと細かに仏像のうめく様子を述べた。豊慶は信行とともにたいへん不思議に思い、また仏像の未完成を非常に悲しんだ。そして信者を集めて、土をねって像を完成させた。それから法会を設けて供養した』

 

【講談社学術文庫 日本霊異記(下) 中田祝夫著P129】

 

ありがとうございました。