切替 | 「ゆるりと仏教」いも掘り坊主の与太話

「ゆるりと仏教」いも掘り坊主の与太話

「念死念仏 常途用心」
仏さまの御教えを、拙僧のエッセイとともに紹介しています。
ほとんど与太話(^_^;)ですが、法話らしきものも書いています。
つたない文章ですが、笑ってもらえたり、うなずいてもらえたりしたら嬉しいです。
毎週水曜日に更新しています。

東京で坊主をしている。

 

小さな町寺に勤めている。

 

普段は掃除と読経が仕事となる。

 

くわえて事務作業も多い。

 

寺では寺務と書いている。

 

ところが、このところ人との関わりも多かった。

 

本山(ほんざん)、地域のお寺さん、イベント等で人とのお付き合いが増えた。

 

人が動きたくなる時期は重なるようである。

 

いつもは一人で地味に仕事をしている。

 

そのためだろうか、人事の世界に入ると、すぐに疲れてしまう。

 

(潮風にあたりたい)

 

仕事の帰り、羽田空港に近い公園へ車で向かった。

 

身心を回復させたかったのだ。

 

すでに日は暮れていた。

 

岸壁によりかかり、海を眺めた。

 

水面が対岸のコンテナヤードのあかりに照らされていた。

 

風はかすかにふいていた。

 

磯の香りがただよっている。

 

熱帯夜だからだろうか。

 

人影はわずかだった。

 

気分が落ち着く。

 

「ふぁ~」

 

思わず声が出た。

 

空をみあげてみる。

 

星はみえない。

 

だが、旅客機のライトがみえた。

 

規則ただしい間隔で光っている。

 

だんだんとこちらに近づいてくる。

 

1機通りすぎる。

 

すると、遠くの方でまた小さくライトがひかり始める。

 

次々と羽田空港に着陸していく。

 

街の方角はとても明るい。

 

レインボーブリッジ、東京タワーがライトアップされていた。

 

高層ビル群も皓々と輝いていた。

 

街のもう少し奥の上空は、チカチカしていた。

 

雷のようだ。

 

危険は感じなかった。

 

雷鳴はまったく届いてこなかった。

 

「ごめんね。釣りじゃないんだよ」

 

話かけたのは猫である。

 

日中、釣りに来たことがある。

 

その時も、近くで猫がチョコンと座っていた。

 

釣れた魚のお裾分けを期待しているようだ。

 

「とは言え、釣りでも同じなんだよね」

 

再び話しかけた。

 

もちろん、釣れたらすぐに海にかえすつもりである。

 

だが、今まで釣りに来て一度も釣れたためしがない。

 

坊主なんだから、それでいい。

 

今一度、街の方へ視線を向ける。

 

「帰るか……」

 

つかのまの休憩である。

 

寺へ戻るまでの半時間で、気持ちも戻しておかなければならない。

 

帰ったら明日の仕事の準備である。

 

 

お釈迦さまのお言葉です。

 

『心が沈んでしまってはいけない。また、やたらに多くのことを考えてはいけない。腥(なまぐさ)い臭気なく、こだわることなく、清らかな行いを究極の理想とせよ』

 

【岩波文庫 ブッダのことば 中村元先生訳P155】

 

ありがとうございました。