「越生」の火葬場に行った。
車で向かった。
埼玉県である。
恥ずかしい。
読むことができなかった。
葬儀社さんに「おごせ」だと教えてもらった。
葬儀は鶴ヶ島にて勤めた。
「念の為、地図をお渡ししておきます」
出棺前、職員さんが案内図を下さった。
普通、坊さんは霊柩車の後について火葬場へ行く。
道中には必ず信号がある。
合流などでは車列の間に車が入る。
すると、霊柩車から大きく離れてしまうことがある。
距離ができると、少し先で霊柩車は必ず待っていてくれる。
安心である。
ただ、こちらが道を間違うことは大いにありえる。
だから心配してくれたのだ。
「道のりは、15キロくらいです」
笑顔で説明してくれた。
進んでいくにつれ、畑が増えてきた。
先には尾根がみえている。
秩父連峰であろう。
緑の景色が広がっていた。
半時間ほどで火葬場に着いた。
車のドアをあける。
辺り一面に綿のようなものが飛んでいた。
(なんだ?)
私には不思議な光景だった。
しかし、だれも気にかけている様子はない。
炉前にて読経をつとめる。
荼毘に付す。
1時間半ほどして収骨となる。
儀式は無事に終えた。
御遺族とは火葬場で別れた。
「綿みたいなものは何ですか」
どうしても気にかかる。
職員さんに質問をしてみた。
「よくわからないです。でも、裏の霊園から飛んでくるようです」
やはり、気にしていないようだ。
(よし、寄ってみよう)
帰路につく前に見学してみることにした。
管理棟の近くに車をとめた。
墓石が斜面にそって並んでいる。
坂道を登った。
(広い……)
丘の上から周りをながめる。
どこまでが敷地なのかわからない程、広大だった。
遠くには、山々がみえる。
涼しくはない。
だが、吹き抜ける風は気持ちよい。
お参りの人は誰もいなかった。
木々の葉が風に揺られる音がする。
鳥たちがさえずっている。
(なんて静かなんだろう)
墓石を拝見しながら、なんとなく歩く。
(鳥や虫たちは、墓石をどのようにみているのだろうか)
フッと考えてしまった。
人にとっては特別な石である。
思いを込めて手をあわせる石造である。
(あれっ?)
墓地には綿が飛んでいなかった。
お釈迦様のお言葉です。
『生きとし生ける者どもは死ぬであろう。生命は終には死に至る。かれらは、つくった業のいかんにしたがっておもむき、(それぞれ)善と悪との報いを受けるであろう。悪い行いをした人々は地獄におもむき、善いことをした人々は、善いところに生まれるであろう。それ故に、善いことをして、来世のために功徳を積め。功徳は、あの世で人々のよりどころとなる』
【岩波文庫 ブッダ神々との対話 中村元先生訳P208】
ありがとうございました。