群馬県の松井田に行った。
仕事で向かうのなら着物で行くこととなる。
寺に勤めているからだ。
坊主なのである。
今回は野暮用である。
だから、半袖短パン姿だ。
朝5時に東京を出発した。
関越自動車道をゆっくりと走る。
1時間程運転していると山がみえてきた。
そのまましばらく進み上信越道へ入る。
半時間すると、岩山があらわれてきた。
(これが妙義山か)
鋭く切り立った山肌である。
格好いい。
人を寄せ付けないような気高さも感じる。
松井田妙義で高速道路を降りた。
早速用事にとりかかる。
要件は昼前には終わった。
(後は帰るだけだ)
とはいうものの、ここまで来たのだ。
すぐに戻るのではもったいない。
(そうだ)
軽井沢の近くに両墓制の墓所があるはずだ。
何かの本で読んだ記憶があった。
松井田ならば、碓氷峠を越えれば軽井沢である。
(よし、越えてみよう)
難所で有名な峠である。
一度は通ってみたい。
運転には自信はない。
だが、迷わず決断した。
「磔(はりつけ)河原」
やがて、身の引き締まる案内板がでてきた。
「碓氷関所跡」
(そうだったのか)
納得である。
「これより碓氷峠」
標識があった。
いよいよだ。
「カーブ1」
右手に立て札があった。
(いくつのカーブがあるのかな)
「カーブ12」
(いいねぇ!)
だんだんと峠の感じが出てきた。
「カーブ45」
(まずいな……)
細くて曲折ばかりの道である。
「カーブ119」
(いつまで続くんだ……)
不安になってきた。
「カーブ162」
(どうなっているんだ……)
昔のひとは、よくぞ歩いて越えられたものである。
「カーブ184」
軽井沢町の案内もあった。
ようやく直線道路となった。
(ふぅ~)
なんとか無事に越えられた。
想像をはるかに上回る険しい峠だった。
古の人のたくましさを、ひしひしと感じた。
(そういえば……)
昼ご飯を食べていなかった。
それどころではなかった。
(コンビニの菓子パンにしよう)
甘いパンと缶コーヒーは大好物である。
それに、軽井沢はお洒落なお店ばかりである。
自分のような者には敷居が高すぎる。
お釈迦さまの教えです。
『「尊師さま。この心なるものは、静め安定しがたいものです。」
(「カーマダよ」と、尊師は言われた。)
〔尊師いわく、―〕
「かれらは、静め安定しがたいものを、静め安定した。かれらは、諸々の感官の安らぎ静まるのを、楽しんでいる。かれらは死神の網を断ち切って、聖者(立派な人々)として歩む、カーマダよ。」
〔カーマダいわく、―〕
「この道は、行きがたく、険しいのです。聖者たちは、行きがたき、険しい道をも進んで行きます。聖者ならざる人々は、険しい道において、頭を下にして倒れます。聖者の道は平らかです。聖者は険しい道においても平らやかに歩むからです。」』
【岩波文庫 ブッタ・神々との対話 中村元先生訳P114】
ありがとうございました。