大法要にて舞いを勤めた。
雅楽の舞いである。
寺の仕事を始めてから雅楽の稽古に通っている。
儀式を一人前に行えるようになるためだ。
約15年続けている。
楽器は龍笛、箏を習っている。
いずれも一筋縄にはいかない。
舞いも難しい。
私の動きは明らかにぎこちない。
先生のように雅ではない。
苦手意識が強い。
「欠員が出たから舞いにまわってほしい」
10日前に先輩から命じられた。
(うわ~)
本番に出演させてもらえるほど学べる機会はない。
ただし、プレッシャーは大きい。
(とにかく復習するしかない)
両手を肩より少しあげる。
体重移動を丁寧にする。
先生に教わったポイントを再確認する。
当日まで繰り返し舞い続ける。
私の勤める舞いは4人で行う。
屋外で舞う。
「良い天気だぞ」
舞いの日、メンバーの1人が気合いを入れてくれた。
「とにかく動きを合わせるように」
2時間前に最終稽古をした。
90分前には装束の被着にうつる。
絲鞋(しかい)、差貫(さしぬき)などは1人で付けられる。
絲鞋は履物である。
差貫は袴の一種だ。
しかし、袍などは1人では被着できない。
周りの方々にお手伝いいただく。
袍はワンピースのような上着だ。
足下で引きずって歩くほど長い。
15分前、出場口に並ぶ。
緊張は極限だ。
(余計なことは考えるな)
ミスしないことを祈る。
「開始が遅れます」
本部からの伝令が来た。
前の儀式がおしているようだ。
「演奏を短くするかもしれません」
再びの伝令だ。
後の予定も詰まっている。
臨機応変は重要だ。
(どなん風に短くなるのだろうか)
頭の中が錯綜してしまう。
「はい、出て下さい」
しかし、整理のつかないまま出場だ。
(あっ)
曲の後半、回転動作をした途端、立ち位置を見失った。
(うわっ、早すぎた)
慌てた影響で皆さんと動きがズレた。
「申し訳ございませんでした」
終了後、控え室で謝る。
もう取り返しはつかない。
とにかく謝るしかない。
帰り道、海の見える公園へ行った。
落ち込む。
(次のチャンスに向けて練習しろ)
潮風にあたりながら、そんなことを反省してみる。
しかし、ますます落ち込む。
しばらく気持ちは沈んだままになりそうだ。
お釈迦さまのお言葉です。
『以前には悪い行いをした人でも、のちに善によってつぐなうならば、その人はこの世の中を照らす。―雲を離れた月のように』
【岩波文庫 ブッダの真理ことば・感興のことば 中村元先生訳P34】
ありがとうございました。