少しだけ時間に余裕ができた。
ずつと立て込んでいた。
仕事が重なるときは重なる。
仕方がない。
人事の中にながくいると思考がとまってくる。
(海を眺めに行こう)
用事を済ませた後、近くの海辺に立ち寄った。
大田区の平和の森公園だ。
小春日和だった。
街中を流れてきた川が海にそそぐ。
そこに橋が架かっている。
橋の上から辺りをみまわす。
緩やかな風が吹く。
波がたつ程ではない。
浜辺の木々は紅葉している。
茶色や黄色の葉が風に合わせて落ちていく。
(気持ちいいな)
カモメが前方を横切った。
水面にはカモが泳いでいる。
二羽、浮いていた。
(かわいいな)
一羽は小さい。
子どものようだ。
(おっ!)
子ガモが浅瀬の岩場で潜った。
やがて数メートル先で浮上する。
(おぉ!)
小魚をくわえている。
殺生に感心してはいけない。
寺に勤めている身である。
しかし……。
もう一羽はやや深いところで潜りを繰り返している。
親ガモだろうか。
橋の真下には魚影がみえる。
大きい。
(黒鯛だろうか)
あるいはスズキかボラか。
岸辺の法面(のりめん)には囲いがしてあった。
ビニールの紐で仕切られている。
「菜の花の種をまきました」
立て札があった。
あかるい緑色の芽がでてきている。
(元気だな)
園内の芝生ではちびっ子たちが走りまわっている。
大騒ぎである。
ベンチにはご老人が腰掛けていた。
景色をみているようだった。
背広をきた若い人が橋の上を歩いていた。
(人事の関わりかな)
携帯電話を手にしていた。
文字を打ち込んでいる様子だ。
(そろそろ戻ろうか)
自分に向かって語りかける。
帰り道、おだやかに車を運転する。
「一切唯心造(いっさいゆいしんぞう)」
お経の句を思い浮かべる。
(思い込みを減らしてみたい)
潮風にあたれたお陰かもしれない。
無い頭だが回りはじめた。
(人が携わっていること、いないこと)
こんなこと人事では役にたたないかもしれない。
それでもいい。
頭を捻ってみたい気分なのである。
お釈迦さまのお言葉です。
『この世のものを浄らかだと思いなして暮し、眼などの感官を抑制せず、食事の節度を知らず、怠けて勤めない者は、悪魔にうちひしがれる。―弱い樹木が風に倒されるように。この世のものを不浄であると思いなして暮し、眼などの感官をよく抑制し、食事の節度を知り、信念あり、勤めはげむ者は、悪魔にうちひしがれない。―岩山が風にゆるがないように』
【岩波文庫 ブッダの真理のことば・感興のことば 中村元先生訳P11】
ありがとうございました。