諸行無常の響き | 「ゆるりと仏教」いも掘り坊主の与太話

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「念死念仏 常途用心」
仏さまの御教えを、拙僧のエッセイとともに紹介しています。
ほとんど与太話(^_^;)ですが、法話らしきものも書いています。
つたない文章ですが、笑ってもらえたり、うなずいてもらえたりしたら嬉しいです。
毎週水曜日に更新しています。

山形県のお寺へ伺った。

 

坊さん仲間と雅楽の稽古を行うためである。

 

山形駅までは新幹線に乗った。

 

そこからは奥羽本線普通列車に乗り換える。

 

電車は2両編成のワンマンカーだった。

 

座席は空いていたが、座らない。

 

年甲斐もなく運転席後ろにかぶりついた。

 

出発してまもなく、左手に山形城の城壁がみえた。

 

さらに進むと右手には山々がみえた。

 

奥羽山脈であろう。

 

車窓からの景色はひらけていて心地よい。

 

閉塞感の強い都心とは違う。

 

「はいどうも」

 

各駅では運転手が降車客に声をかける。

 

無人駅があるため降車の際、運賃は運転手に支払うのだ。

 

学生さんは定期券をみせていた。

 

おだやかな光景である。

 

目的の駅に着くと仲間が迎えにきてくれていた。

 

「お久しぶりです」

 

挨拶を交わし車に乗る。

 

田園の間を進む。

 

(「はえぬき」だろうか「つや姫」だろうか)

 

とても美しい風景である。

 

お寺には15分程で到着した。

 

本堂前で一礼してから古民家のような庫裏にお邪魔した。

 

「今日はどの曲を稽古しようか」

 

お茶をいただきながら皆で相談する。

 

「盤涉調(ばんしきちょう)がいいな」

 

先輩が提案する。

 

葬儀で雅楽を演奏する際には盤涉調を用いる。

 

曲名は『白柱(はくちゅう)』と『盤涉調・越天楽(えてんらく)』である。

 

ただしこれは仏式でのことだ。

 

皇族さま方の葬送では『竹林楽(ちくりんがく)』を演奏なさるらしい。

 

曲が決まり、お堂に移動する。

 

各窓を全開にする。

 

天気がいい日だった。

 

さわやかな風がお堂へ入り込む。

 

笙、篳篥、笛にて合奏稽古を始める。

 

(贅沢な時間だ)

 

儀式のための稽古だが楽しくて仕方がない。

 

「ところで、窓を全開にしていて近所から苦情がこないですか」

 

一曲吹き終えた後、質問した。

 

朝勤行では鏧(かね)を鳴らす。

 

東京都心ではこの音にクレームが入ることがある。

 

うるさくて気に触るらしい。

 

だから心配になったのだ。

 

「大丈夫だよ」

 

皆が笑顔で答えてくれた。

 

確かに隣の家までは50m以上離れている。

 

だが、そうは言っても閑静なところである。

 

遠くまで響いているに違いない。

 

山形の人は心が広い。

 

一方、東京は……。

 

まさに『祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり』である。

 

 

お釈迦さまの御教えに以下のお言葉があります。

 

『世の中は泡沫(うたかた)のごとしと見よ。世の中はかげろうのごとしと見よ。世の中をこのように観ずる人は、死王もかれを見ることがない』

 

【岩波文庫 ブッダの真理のことば・感興のことば 中村元先生訳P34】

 

ありがとうございました。