髪のなやみ | 「ゆるりと仏教」いも掘り坊主の与太話

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「念死念仏 常途用心」
仏さまの御教えを、拙僧のエッセイとともに紹介しています。
ほとんど与太話(^_^;)ですが、法話らしきものも書いています。
つたない文章ですが、笑ってもらえたり、うなずいてもらえたりしたら嬉しいです。
毎週水曜日に更新しています。

先輩のお坊さん二人が話をしていた。

 

頭髪についてだ。

 

昨年から頭が薄くなり始めたそうである。

 

もちろん二人とも坊主頭である。

 

一人は、気にかかってはいるが特に策を施してはいない。

 

だが、もう一人は半年前から育毛剤を使用しているらしい。

 

ちょっと驚いた。

 

先輩に盾をつくつもりはない。

 

生意気を言うつもりもない。

 

しかし、心の中でおもわずつぶやいていた。

 

「坊さんなんだから、髪の心配をするなよ……」

 

ところが話はそれだけではなかった。

 

育毛剤の先輩は、ヘッドスパでマッサージをしてもらうことも検討しているらしいのだ。

 

「そこまで真剣に悩んでいるのか」。

 

ますます驚き、眉をひそめてしまった。

 

すると、その表情を見た先輩が声をかけてきた。

 

「お前も一緒に行くか」

 

私が育毛を望んでいるようにみえたようである。

 

「凉心も上の方が薄くなってきたからな」

 

さらに予想外のことまでつけくわえてきた。

 

「僕も薄い……」。

 

突然の指摘になぜか動揺した。

 

一瞬身体が熱くなった。

 

冷静にしてはいられない状態だ。

 

頭頂は自分でみることができない。

 

寺へ戻ると、急いで家族に確認してもらった。

 

「ああ、そうかもね」。

 

なんの溜めもない。

 

あっさりと言われた。

 

うなだれながら部屋に下がる。

 

「薄いのか」

 

再び落ち込んだ。

 

しばらくは放心状態だった。

 

すると、まもなく第二派の衝撃もやってきた。

 

「僕も髪のことを気にしていたのか……」。

 

坊主なんだから、薄かろうが無かろうがどうでもいい。

 

私は心底思っていたはずである。

 

それなのに、この醜態だ。

 

先輩のことを言う資格はないではないか。

 

上辺だけの自分を自覚させられた。

 

さて、しばらく沈んでいた後、フッと考え始めた。

 

「何に落ち込んでいるのだろうか」

 

どのみちツルツルなのである。

 

髪の有無に悩むのは明らかにおかしい。

 

静かに、ゆっくり、身体感覚を感じとってみた。

 

ジワジワと、寂しさや迷いが浮き上がってきた。

 

もう若くはない。

 

若者と世代交代をする時期が近づいている。

 

新たな生活を模索する段階になりつつある。

 

「新たな課題に取り組む時期の知らせだったのかな」

 

そう解ってみると、髪のことは気にならなくなっていた。

 

 

お釈迦さまの御教えに、以下の言葉があります。

 

『魚肉・獣肉を食わないことも、断食も、裸体も、剃髪も、結髪も、塵垢にまみれることも、粗い鹿の皮を着ることも、火神への献供につとめることも、あるいはまた世の中でなされるような、不死を得るための苦行も、ヴェーダの呪文も、供儀も、祭祀も、季節の荒行も、それらは、疑念を超えていなければ、その人を清めることができない』

 

【岩波文庫 ブッダのことば 中村元先生訳P56】

 

ありがとうございました。