一人で外食する際には決めていることがある。
長年の経験によりなんとなく出来てきた。
どうやら刺激のつよいものは、私の身体にはあわないようだ。
刺激のつよいものを食べると、きまってお腹の調子が悪くなる。
からいもの、熱いもの、冷たいもの、苦いもの、香りのつよいもの、油の多いもの、生もの、消化の遅いもの。
だから、外ではそのような食事はなるべくとならい。
とても怖いのだ。
わからずに過ごしていた若いころ、何度も大変な目にあった。
電車内、自動車内、街中、などなどだ。
お腹のことだから、具体例は控えておく。
こうして学ぶうちに、外で食べるものは温かくて素朴なものにしぼられてきた。
種類は少ない。
「温かいうどん」、「ごくごく普通のカレー」、「野菜炒め定食」、あとはかろうじて「蕎麦」だ。
温かいうどんは、身体も冷えないし、消化にも優しい。
たぬきうどんをたのめば、適度な油分でちょうどいい。
ついでに気持ちもあたたかくなってくる。
子供のころ、病気になると母がうどんをつくってくれたからかもしれない。
あるいは、一緒に出かけることが少なかった父と、巣鴨でおいしい「釜揚げうどん」を食べたことを思い出すからだろうか。
ごくごく普通のカレーを食べる場合は、役所、大学、図書館などの食堂を探す。
こういったところはシンプルなメニューが多いからだ。
間違っても激辛なんてない。
よくわからない香辛料に凝ったものもない。
値段が庶民に優しいのも有り難い。
プラスチックの器も質素でいい。
健全に生きている気がして気持ちが落ち着く。
このような傾向だから、誰かと外で食事をとるのは案外悩む。
「どうしたの。調子が悪いの」「好きじゃなかった」
先日も、先方さまに合わせてお店に入ったら気を遣わせてしまった。
そうかといって「うどんはどうですか」などと夕飯時にはいいづらい。
「長老じゃないんだから、もうちょっとガッツリいこうよ」となることは請け合いである。
あちらをたてればこちらがたたず。
こちらをたてれば…。
刺激のつよい食事ではなくてもお腹の具合がわるくなりそうである。
「方丈記」に、以下のお言葉があります。
『全体に、こうした山中の独り住まいがもたらす楽しみは、ぜいたくできる人たちに向かって言っているのではない。ぜいたくを戒めるつもりなどない。ただ、私という一個人の問題として、街中で暮らした昔と山中に独り住む今とを比べて、生活の信条を述べたにすぎない』
【角川文庫 ビギナーズクラシック方丈記 武田友宏先生編P136】
ありがとうございました。