身体に疲れがたまり、考えも煮詰まっている感覚があつたので、息抜きのために丹沢へ行った。
都心から東名高速を使えば1時間程度で行ける程の身近なところなのに、豊かな自然が広がっている地である。
宿の駐車場で車を降りた瞬間、爽やかな空気が身体に入ってきた。
「ああ、いいなぁ」とおもわず声がでてしまう。
早速、台帳に住所と名前を記入し部屋を案内してもらった。
とても落ちつきのある綺麗な和室。
窓からは、辺りの森林が一望でき、それだけも心が癒やされた。
座椅子によりかかりながら景色を眺めお茶を頂く。
「フゥー」
心身の無駄な力みが取れていく。
一息ついた後は、あたりを散策してみることに。
宿の横の坂道を登っていく。
川があるのだろうか、水の流れる音がする。
風が「スーッ」と吹く。
心地よく肌感覚が刺激される。
野鳥のさえずりもきこえてくる。
大好きなコジュケイの声もする。
「なんて清々しいんだ」
日々の疲れが身体から一気に抜けていくようで、うれしかった。
気分爽快にさらに進む。
すると、突然緊張が走った。
「熊に注意」と記された看板があったのだ。
「えっ、丹沢って熊もいるの」
都会では想像もつかないような注意書に怯んだ。
次に「今出てきたらどうしよう。襲われたら応戦できるわけがない。逃げきれる自信もないな」と、危機管理体制に入った。
熟考の末、未練はあるが宿に戻ることにした。
部屋で寝そべりながら休んでいると、ヒグラシの鳴き声がきこえてきた。
もの悲しい雰囲気でもありながら、気持ちは穏やかになってくる。
なんとも心地よく贅沢な時間だった。
自然に触れ合うと、日頃使っていなかった感覚がよみがえってくるように感じられた。
沢山の違いが五感にまんべんなく刺激を与えてくれたのであろうか。
都会は制御・整備されていて、とても便利である。
しかし、どこへ行っても部屋の温度は空調で一定に保たれ、音は人工的な音ばかりで変化はすくない。
故に一部の感覚しか使わなくなっていたのかもしれない。
そんなふうに、山の幸の夕飯を美味しく頂ながら振り返っていた。
お釈迦様のお弟子様の御教えに、以下のようなお言葉がございます。
『清く澄んだ水あり、ひろびろとした岩盤あり、黒面の猿と鹿がいて、水と苔で覆われている岩山は、わたしを楽しませる』
【岩波文庫 仏弟子の告白 113偈 中村元先生訳】
ありがとうございました。