汗だくになりながら目が覚めた。
夢をみていたのである。
儀式を行っている夢だった。
なんの儀式だったのかまでは、記憶に残っていない。
私は本堂の脇に座っていた。
雅楽を演奏する役目だった。
楽器は龍笛(りゅうてき)である。
いわゆる横笛だ。
仕事は、坊主なのである。
都心の寺に勤めている。
雅楽は、15年以上習っている。
大きな儀式が執り行われる際、雅楽を演奏することがある。
お導師や、お経を読む僧侶の入退堂にあわせて奏する。
お堂に入って来るときや、帰るときである。
雅楽演奏は、音取(ねとり)から始まる。
音取は、鳳笙(ほうしょう)、篳篥(ひちりき)、龍笛の順番で吹き出す。
1分から2分くらいの曲だ。
これから演奏するメイン曲の雰囲気を提供することとなる。
そのほか、楽器どうしの音程合わせも兼ねている。
音取が終わると、メイン曲となる。
メイン曲は、すべて龍笛の独奏からスタートされる。
独奏は、30秒から1分くらいとなる。
これが緊張する。
(えっ、なんで、どうしよう)
独奏役をいただいた私は、初端で失態をおかした。
音が出なかったのである。
どのような楽器であっても、それぞれに難しさがあるであろう。
龍笛は、音をだせるようになるまで時間がかかる。
多くの人が、ここで苦労する。
3か月から半年ほど要しても不思議ではない。
従って、龍笛吹きは音が出ない怖さを抱えている人がそれなりにいる。
「ス~、ス~」
焦れば焦るほど、身体に無駄な力が入る。
比例して息づかいが空回りする。
ますます音がかすれていく。
心臓がはちきれそうだ。
ほかの楽人たちが困惑している様子も伝わってくる。
(うわ~)
恥ずかしい。
情けない。
逃げ出したい。
逃げられない。
身体が異常に熱くなる。
全身汗まみれである。
「あああっ~」
ここで目が開いた。
(ん?)
狭い部屋にいる。
自室で寝ていたことがわかり、心の底からホッとした。
「助かった」
しかし、気を抜いてはいけない。
春には大きな儀式が開かれる。
「稽古が足りていないぞ」
夢は、仏さまからの警告にまちがいない。
「発心集」の記です。
『全員が夢に見るわけではないので、普段は自分の運命も知らないで生きている。大したこともない身なのに、大切な時間をむだにして、後世の修行は後回しにしてしまう。もしかすると何か手に入れられるのでは、と思ってあくせく走り求め、心をすり減らしてしまうのだ。仏や神がその姿を御覧になっていると思うと、とても恥ずかしくなってきます』
【角川文庫 発心集・下 鴨長明著、浅見和彦・伊東珠美=訳注 P251】
ありがとうございました。