「ゆるりと仏教」いも掘り坊主の与太話

「ゆるりと仏教」いも掘り坊主の与太話

「念死念仏 常途用心」
仏さまの御教えを、拙僧のエッセイとともに紹介しています。
ほとんど与太話(^_^;)ですが、法話らしきものも書いています。
つたない文章ですが、笑ってもらえたり、うなずいてもらえたりしたら嬉しいです。
毎週水曜日に更新しています。

東京の寺院に勤めている浄土宗僧侶・凉心です。
仏さまや高僧さまの御教えを、エッセイとともにご紹介しています。
有り難い法話が書けるといいのですが……。
ほとんどが与太話となっています。
それでも、微笑んでもらえたり、なっとくしてもらえたりすると嬉しいです。
どうぞ、ご笑覧くださいませ。
趣味は、山登り、海をながめること、雅楽演奏、テニスです。

汗だくになりながら目が覚めた。

 

夢をみていたのである。

 

儀式を行っている夢だった。

 

なんの儀式だったのかまでは、記憶に残っていない。

 

私は本堂の脇に座っていた。

 

雅楽を演奏する役目だった。

 

楽器は龍笛(りゅうてき)である。

 

いわゆる横笛だ。

 

仕事は、坊主なのである。

 

都心の寺に勤めている。

 

雅楽は、15年以上習っている。

 

大きな儀式が執り行われる際、雅楽を演奏することがある。

 

お導師や、お経を読む僧侶の入退堂にあわせて奏する。

 

お堂に入って来るときや、帰るときである。

 

雅楽演奏は、音取(ねとり)から始まる。

 

音取は、鳳笙(ほうしょう)、篳篥(ひちりき)、龍笛の順番で吹き出す。

 

1分から2分くらいの曲だ。

 

これから演奏するメイン曲の雰囲気を提供することとなる。

 

そのほか、楽器どうしの音程合わせも兼ねている。

 

音取が終わると、メイン曲となる。

 

メイン曲は、すべて龍笛の独奏からスタートされる。

 

独奏は、30秒から1分くらいとなる。

 

これが緊張する。

 

(えっ、なんで、どうしよう)

 

独奏役をいただいた私は、初端で失態をおかした。

 

音が出なかったのである。

 

どのような楽器であっても、それぞれに難しさがあるであろう。

 

龍笛は、音をだせるようになるまで時間がかかる。

 

多くの人が、ここで苦労する。

 

3か月から半年ほど要しても不思議ではない。

 

従って、龍笛吹きは音が出ない怖さを抱えている人がそれなりにいる。

 

「ス~、ス~」

 

焦れば焦るほど、身体に無駄な力が入る。

 

比例して息づかいが空回りする。

 

ますます音がかすれていく。

 

心臓がはちきれそうだ。

 

ほかの楽人たちが困惑している様子も伝わってくる。

 

(うわ~)

 

恥ずかしい。

 

情けない。

 

逃げ出したい。

 

逃げられない。

 

身体が異常に熱くなる。

 

全身汗まみれである。

 

「あああっ~」

 

ここで目が開いた。

 

(ん?)

 

狭い部屋にいる。

 

自室で寝ていたことがわかり、心の底からホッとした。

 

「助かった」

 

しかし、気を抜いてはいけない。

 

春には大きな儀式が開かれる。

 

「稽古が足りていないぞ」

 

夢は、仏さまからの警告にまちがいない。

 

 

「発心集」の記です。

 

『全員が夢に見るわけではないので、普段は自分の運命も知らないで生きている。大したこともない身なのに、大切な時間をむだにして、後世の修行は後回しにしてしまう。もしかすると何か手に入れられるのでは、と思ってあくせく走り求め、心をすり減らしてしまうのだ。仏や神がその姿を御覧になっていると思うと、とても恥ずかしくなってきます』

 

【角川文庫 発心集・下 鴨長明著、浅見和彦・伊東珠美=訳注 P251】

 

ありがとうございました。