「ゆるりと仏教」いも掘り坊主の与太話

「ゆるりと仏教」いも掘り坊主の与太話

「念死念仏 常途用心」
仏さまの御教えを、拙僧のエッセイとともに紹介しています。
ほとんど与太話(^_^;)ですが、法話らしきものも書いています。
つたない文章ですが、笑ってもらえたり、うなずいてもらえたりしたら嬉しいです。
毎週水曜日に更新しています。

東京の寺院に勤めている浄土宗僧侶・凉心です。
仏さまや高僧さまの御教えを、エッセイとともにご紹介しています。
有り難い法話が書けるといいのですが……。
ほとんどが与太話となっています。
それでも、微笑んでもらえたり、なっとくしてもらえたりすると嬉しいです。
どうぞ、ご笑覧くださいませ。
趣味は、山登り、海をながめること、雅楽演奏、テニスです。

都心の小さな町寺に勤めている。

 

坊主である。

 

仕事は、昔から一掃除二勤行となっている。

 

勤行には、朝のお勤めがある。

 

ほかにも、お檀家さんの年忌法要を行うことがある。

 

ときには、知り合いのお花屋さんから法要を依頼されることもある。

 

都営墓地の近くにお店を構えているのである。

 

先日も連絡が入った。

 

ご供養の日、まずはお花屋さんへ向かう。

 

「こんにちは」

 

初めに、お花屋さんへ挨拶をした。

 

「お待ちしていました」

 

お施主さんは、先にいらしていた。

 

80才くらいのご婦人だった。

 

娘さん2人も待合に座っていた。

 

「よろしくお願い致します」

 

お施主さんと私の声がかぶる。

 

「雨が降りそうなので……」

 

お施主さんがご心配下さった。

 

早速、墓地へ向かう。

 

石畳の通路を、4人で歩む。

 

「まさか五十回忌のご供養ができるとはね……」

 

お施主さんがお話し下さった。

 

「母は、観音さまをお祈りしていたのよ」

 

大切にかかえていらした鞄を私へお示しなさった。

 

その念持仏をお持ちになったようだ。

 

静かな霊園に落ち葉を踏む音が抜けてゆく。

 

「時間をみつけては、お勉強してね」

 

お母さまの観音さまは形見である。

 

大事におまつりしていた。

 

しかし、それだけではない。

 

「気にかかりますよね」

 

お母さまがどのような菩薩さまに手を合わせていらしたのか。

 

大切になさっていた御教えは、いかなるものか。

 

お若いころは日々の生活に追われる。

 

家事も忙しい。

 

子育てもある。

 

(そうですよね)

 

私も胸のなかで相槌を打った。

 

「だから、本を読んでね」

 

忙しくとも合い間に学ぶ。

 

「いつのまにか、私も拝むようになったの」

 

50才頃、ご主人が大病を患った。

 

親戚のなかで、いざこざがあった。

 

「母に相談できないでしょ」

 

だから、お母さまの観音さまにお祈りを捧げた。

 

お母さまが信じていた御教えを頼りにした。

 

「そのお陰なのよ」

 

人生を乗り越えてこられた。

 

「美しいお顔でしょ」

 

観音さまは、綺麗な風呂敷に丁寧に包まれていた。

 

「今日のご供養は、観音さまとご一緒よ」

 

ご婦人は、墓前にてお母さまに声をおかけになった。

 

そして、墓前の机に、観音さまを優しくお設えなさった。

 

 

「観音経」の御教えです。

 

『このように、生きとし生けるものたちが、いかなる困苦を受けるとも、観音菩薩ここにあり。ものを見通す力もて、世の苦悩を救い行く。観音の救いのさまは神業で、目にもとまらぬものながら、元を質せば、ものの本質見極める智慧にして、それゆえ、応ぜぬものはなし』

 

【春秋社 「観音経のこころ」 興福寺・多川俊映ご貫主さま著 P281】

 

ありがとうございました。