学園太平記 (134) | 犬小屋チャンプルー

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犬己那池の、オリジナルの小話やイラストをもさもさ更新するブログ。
最近は、歴史創作(南北朝~戦国時代)がメインになっています。

※注意※

この話はフィクションです。

歴史創作・パロディが苦手な方は、撤退してください。






それでも大丈夫な方のみ、以下からどうぞ。↓






4月吉日、北校の入学式当日。

僕は会場である体育館へと向かっていた。

生徒会長として、新入生に挨拶するためだ。

遅刻しないよう早足で歩いていると、廊下に何かが落ちていた。

思わず足を止めて、淡紅色のそれを拾い上げる。


「何でここに、桜の花弁が?」


1枚の花弁を矯めつ眇めつしながら、首を傾げる。

普通、入学式と言えば桜の花を思い浮かべるだろう。

だけど、ここ北校――旧校舎の付近に、桜は植えられていない。

桜が植えられているのは、新校舎である南校の側だ。


「できれば、新入生たちに学園の桜並木の下を歩いてもらいたかったな」


南北両校が争いあっている今、それは叶わぬ願いだ。

新入生たちには申し訳ないけれど、北校の入学式は桜なしで行おう。

花弁を大事にポケットにしまって、体育館の扉を開ける。


「これは……!」


視界一杯に広がる淡紅色の雲。

そこから、はらはらと雪が舞い落ちている。

――いや、違う。

桜だ。

どこもかしこも、桜、桜、桜。

なんで、どうして?

てっきり、いつもの殺風景な体育館を想像していたのに。

これじゃまるで、屋内に桜並木が出現したようだ。


「どう? 気に入ってくれたかしら」


振り返ると、派手な装いのシスターが立っていた。

その紅唇が、妖しく歪んでいる。


「道誉! こんなにたくさんの桜、一体どこから採ってきたの?」


会場に桜を飾るなんて聞いてない。

彼女の仕業である時点で、なんだか悪い予感がする。

詰め寄る僕に対して、道誉は平然と答えた。


「そんなの、南校の側からに決まってるでしょ。桜がない入学式なんて、文字通り花がないもの」


……やっぱり。

彼女のことだから、きっと勝手に折り採ってきたに違いない。

しかも、この量だ。

今頃、南校の桜は丸裸になっているんだろうな。

すると、道誉の後ろから、公義が得意気に顔を出した。


「ちなみに、僕が花を生けたんですよ♪ どうです、綺麗でしょ~」


「本当、公義クンがフラワーアレンジメントが得意で助かったわ」


「サンキューで~す♪ 美人の頼みなら、いくらでも聞きますよ♪」


あまりの事態に呆然とする僕を差し置いて、二人は盛り上がる。

いつの間に仲良くなったんだろう、この二人――って、問題はそこじゃなくて。


「確かに綺麗だけど……無断で桜を採ってくるなんてダメだよ。早く南校に返して、謝らないと」


何より、めでたい入学式の日に、新たな火種を作りたくない。

そんな僕に対して、道誉は余裕の表情を浮かべる。


「ふふっ、尊氏クンは正直者ね。心配しないで。私はそんな貴方のために邪魔者を切り倒す、金の斧なのよ」


泉の精から正直者の樵に与えられた、金の斧。

美しいけれど、使いこなせなければ、逆に振りまわされてしまう。

桜舞い散る体育館で、僕は新年度早々、途方に暮れていた。


   ***


『学園太平記』第三部、いよいよ本編の始まりです!

今回の話は、道誉が妙法院を焼く話がもとになっています。

季節がら、折るのは紅葉じゃなくて桜にしました。

ちなみに、この後道誉は謹慎処分をくらいますが、「家でゆっくり美術品が愛でられていいわv」と全然反省していません(笑)。


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