※注意※
この話はフィクションです。
歴史創作・パロディが苦手な方は、撤退してください。
それでも大丈夫な方のみ、以下からどうぞ。↓
4月吉日、北校の入学式当日。
僕は会場である体育館へと向かっていた。
生徒会長として、新入生に挨拶するためだ。
遅刻しないよう早足で歩いていると、廊下に何かが落ちていた。
思わず足を止めて、淡紅色のそれを拾い上げる。
「何でここに、桜の花弁が?」
1枚の花弁を矯めつ眇めつしながら、首を傾げる。
普通、入学式と言えば桜の花を思い浮かべるだろう。
だけど、ここ北校――旧校舎の付近に、桜は植えられていない。
桜が植えられているのは、新校舎である南校の側だ。
「できれば、新入生たちに学園の桜並木の下を歩いてもらいたかったな」
南北両校が争いあっている今、それは叶わぬ願いだ。
新入生たちには申し訳ないけれど、北校の入学式は桜なしで行おう。
花弁を大事にポケットにしまって、体育館の扉を開ける。
「これは……!」
視界一杯に広がる淡紅色の雲。
そこから、はらはらと雪が舞い落ちている。
――いや、違う。
桜だ。
どこもかしこも、桜、桜、桜。
なんで、どうして?
てっきり、いつもの殺風景な体育館を想像していたのに。
これじゃまるで、屋内に桜並木が出現したようだ。
「どう? 気に入ってくれたかしら」
振り返ると、派手な装いのシスターが立っていた。
その紅唇が、妖しく歪んでいる。
「道誉! こんなにたくさんの桜、一体どこから採ってきたの?」
会場に桜を飾るなんて聞いてない。
彼女の仕業である時点で、なんだか悪い予感がする。
詰め寄る僕に対して、道誉は平然と答えた。
「そんなの、南校の側からに決まってるでしょ。桜がない入学式なんて、文字通り花がないもの」
……やっぱり。
彼女のことだから、きっと勝手に折り採ってきたに違いない。
しかも、この量だ。
今頃、南校の桜は丸裸になっているんだろうな。
すると、道誉の後ろから、公義が得意気に顔を出した。
「ちなみに、僕が花を生けたんですよ♪ どうです、綺麗でしょ~」
「本当、公義クンがフラワーアレンジメントが得意で助かったわ」
「サンキューで~す♪ 美人の頼みなら、いくらでも聞きますよ♪」
あまりの事態に呆然とする僕を差し置いて、二人は盛り上がる。
いつの間に仲良くなったんだろう、この二人――って、問題はそこじゃなくて。
「確かに綺麗だけど……無断で桜を採ってくるなんてダメだよ。早く南校に返して、謝らないと」
何より、めでたい入学式の日に、新たな火種を作りたくない。
そんな僕に対して、道誉は余裕の表情を浮かべる。
「ふふっ、尊氏クンは正直者ね。心配しないで。私はそんな貴方のために邪魔者を切り倒す、金の斧なのよ」
泉の精から正直者の樵に与えられた、金の斧。
美しいけれど、使いこなせなければ、逆に振りまわされてしまう。
桜舞い散る体育館で、僕は新年度早々、途方に暮れていた。
***
『学園太平記』第三部、いよいよ本編の始まりです!
今回の話は、道誉が妙法院を焼く話がもとになっています。
季節がら、折るのは紅葉じゃなくて桜にしました。
ちなみに、この後道誉は謹慎処分をくらいますが、「家でゆっくり美術品が愛でられていいわv」と全然反省していません(笑)。
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