学園太平記 ~新田家の事情編 その5~ | 犬小屋チャンプルー

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犬己那池の、オリジナルの小話やイラストをもさもさ更新するブログ。
最近は、歴史創作(南北朝~戦国時代)がメインになっています。

※注意※

この話はフィクションです。

歴史創作・パロディが苦手な方は、撤退してください。






それでも大丈夫な方のみ、以下からどうぞ。↓






その後、ひかりは病院に運ばれたが、間もなく息を引き取った。

死因は、過労。

昼は家事とパートに追われ、夜は遅くまで内職に励んだ結果だった。


「すまない、ひかり……俺が、俺が北条グループの傘下に入っていれば、こんなことには……!」


ベッドに横たえられた妻の亡骸を前に、朝氏は号泣した。

傍らに立つ船田義昌たち社員に構うことなく。

普段は息子たちに「男は人前で涙を見せてはならない」と教えているが、今回は別だ。

自分の「下らないプライド」が、愛する妻を死に追いやったのだ。

その上、仕事がうまくいかない苛立ちを彼女にぶつけたりして。

なぜ、もっとひかりを労わってやれなかったのだろう。

彼女は自分にひどいことを言われても、涙一つ見せず、文句一つ言わずに受け止めてくれたのに。


「結局、結婚指輪も買ってあげられなかった……」


後悔に濡れた声で、朝氏は呟く。

その大きな手に握られているのは、瑠璃色の元結。

ひかりが生前いつも身につけていた物だ。


彼女と結婚した当初、朝氏は貧しくて結婚指輪を買う余裕がなかった。

ひかりも、自分から物をねだるような性格ではなかった。

だがある日、朝氏は見てしまった。

彼女が居間で、一枚のチラシをじっと見つめているところを。

スーパーの安売りのチラシに交じっていたそれは、宝石店のチラシ。

美しい瑠璃の指輪の写真に、彼女の視線は注がれていた。

その翌日、朝氏はひかりに、瑠璃色の元結を贈った。

「いつか新田組が繁栄したら、本物の瑠璃の指輪を贈る」と約束して――。


しかし、その約束はもう果たせない。


「『尊厳』と『崇高』――」


「何?」


朝氏は泣きはらした目で、声のした方向を振り返る。

そこには、義昌の慈愛に満ちた顔があった。


「瑠璃の宝石言葉ですよ。奥様はきっと、『源氏組の誇り』を守り通した社長を恨んでなどいません。そして、これからもそうあり続けてほしいと願ってらっしゃるはずです」


「……そうか」


ならば、自分は己の信じる道を突き進むのみ。

この、何色にも侵されぬ気高い青のように。

朝氏は元結を握りしめた手の甲で目をこすると、妻の亡骸に頭を下げた。


「今までありがとう、ひかり。これからはゆっくり休め」


そんな朝氏の言葉に応じるように、ひかりは安らかに眠っていた。


   ***


ひかりの死と、形見の元結。

彼女の死後は、義昌が母親代わりに義貞義助の世話をしました。

本当は、朝氏に対する義昌の恋心とかも書きたかったのですが……。


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