カガク少年、ロマンチック少女と、2つの困難を潜り抜けた少女サンタ。
そして今、3人目の家へとソリはむかう……。
「うひゃー、大きな家……」
目の前の豪邸に、少女サンタは思わずそう呟いた。
門前にソリを止めているが、そのずっと向こうに玄関がある。
間を埋める広い庭には、色とりどりのイルミネーションが煌いている。
少女サンタはしばらくその景色に見とれていたが、やがて本来の目的を思い出すと、トナカイに言った。
「とにかく、ここからじゃ遠くて部屋の中に入れないわね。出来るだけ気づかれないように窓に接近して頂戴」
「了解」
鈴の音を潜めながら、ソリが門の上を通過した、そのとき。
「侵入者発見! 直ちにひっ捕らえよ!」
けたたましいサイレンとともに、黒い制服を着た人々がどこからともなく湧いてくる。
「何よ、また待ち伏せ!?」
慌てて逃げようとUターンするソリに、上から網がかぶさる。
自由を失ったソリはゆっくりと地上へ落下し、黒服は蟻のごとくそれに群がった。
「やっと来ましたね。もう1日ぐらい待った気がしますが」
捕まった少女サンタとトナカイに、少女は穏やかに微笑みかけた。
2人が連れてこられた部屋は、子ども一人が使うには十分すぎる程の広さである。
そこに、巨大なツリーやらプレゼントの山やらが置かれていた。
一通り辺りを見回してから、少女サンタは話を切り出す。
「……で、アナタはプレゼントに何が欲しいのかな?」
「何も」
「え!?」
予想外の答えに、驚きの声を上げる少女サンタ。
少女はため息をつくと、部屋の隅にあるプレゼントの山を見やる。
「だいたい、人からこんなにプレゼントをいただいているのに、これ以上欲しいものがあるとでも?」
「そーデスよ。それくらい、ちゃんと観察していれば分かるコトでショーが」
同意するトナカイに、少女は嬉しそうに微笑む(なぜかトナカイがしゃべる事には疑問を持たずに)。
「あら、そちらのトナカイさんはよく分かってらっしゃいますね」
「こんな人でスミマセン。しかし、彼女は今回が初仕事……ここは何とぞ希望を述べて下サイまセンか」
「そうですねぇ……」
「ちょ、私を差し置いて話を進めないでよ!」
2人の会話に、少女サンタが慌てて突っ込んだ。
「では、あえて欲しいものを1つ」
顎に手を当て、しばらく考え込んだ後、少女が口を開いた。
「しばらくの間、私の話し相手になってください」
「それだけでいいの?」
再び驚きの声を上げる少女サンタの後頭部に、トナカイの角が突き刺さる。
トナカイは察していたのだ、聖夜を1人で過ごさざるを得ない少女の寂しさを。
それは物で満たされるものではない。
「ええ。貴女方の時間の許す限り、お願いできませんか」
「オッケー☆ じゃあ、この私の華麗な仕事ぶりを」
「デハ、この仕事における私の苦労話を一ツ」
「それは面白そうですね。一体どのような苦労を?」
「ちょ、私ハブ?!」
こうして、少女――ミヤビの広すぎる部屋に、しばらくの間笑い声が満ちた。
***
昨日は漫研の忘年会で更新できず(汗)。
お待たせしました、今回はミヤビちゃんです。
腹黒お嬢様の会話は書いてて楽しいv