運ばれてきた夕餉を食べ終えると、燕は床に付いた。
怪我は回復に向かっているとはいえ、まだまだ安静にしていなければならない。
「早く良くなって、これ以上聖さんたちに迷惑が掛からないようにしないと……」
闇の中で、そう独りごちる。
記憶喪失という厄介なものになってしまった自分を、嫌な顔一つせず受け入れてくれた聖。
先程だって、戦闘後の忙しい中、自分の話し相手になってくれた。
彼女のそんな優しさが、燕にはとても嬉しかった。が、
「あの子は一体誰なのかしら?」
聖と燕が談笑していると、途端に現れる殺気。
それは自分に向けられている。
いつもは空気のように希薄で、よほど注意していないと掴めないくらいかすかな気配なのに……。
おそらく聖の護衛か何かなのだろうが、姿を隠していてもその存在は燕には察知できた。
それほど、主人が他の人と話していることが気に食わないのだろう。
そう、その様子は……
「まるで、 みたい」
くすりと笑った瞬間、脳に走る激痛。
燕は布団の中で、目をつむり頭を抱えた。
瞼の裏に浮かぶのは、人と談笑している自分。それを面白くなさそうに見ている子ども。
意識を集中するが、そのシルエットはぼやけ、やがて消えてしまった。
しかし、これだけは言える。
(自分は、同じようなことを経験した覚えがある?)
そして、あの子は……
頭痛が治まっていくと同時に、燕の意識は闇の中に溶けていった。
「綺麗ですね、それ」
そういってますずが指差したのは、椿が腰に差している刀の鍔。
金製のそれには、乱れ咲く椿の文様が刻まれている。
「そうか? 実は姉上と揃いでな、姉上のには」
「あーもう、その先はいいです」
速攻で話を打ち切られて、椿は不機嫌そうに顔をしかめた。
「ムゥ……話しかけたのはお前だぞ」
「椿さんの話のネタって、お姉さんの事しかないんですかぁ~」
罰のおつかいの帰り道。
月明かりの下、黄金の鍔は星のごとく瞬いていた。
***
もう12月ですね!
一年が過ぎるのは早いです。
そしてこの『Sweet Wars』、今回で何気に10話目です……一体どこまで続くやら(汗)。