Side S ~闇の中~ | 犬小屋チャンプルー

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犬己那池の、オリジナルの小話やイラストをもさもさ更新するブログ。
最近は、歴史創作(南北朝~戦国時代)がメインになっています。

運ばれてきた夕餉を食べ終えると、燕は床に付いた。

怪我は回復に向かっているとはいえ、まだまだ安静にしていなければならない。

「早く良くなって、これ以上聖さんたちに迷惑が掛からないようにしないと……」

闇の中で、そう独りごちる。

記憶喪失という厄介なものになってしまった自分を、嫌な顔一つせず受け入れてくれた聖。

先程だって、戦闘後の忙しい中、自分の話し相手になってくれた。

彼女のそんな優しさが、燕にはとても嬉しかった。が、

「あの子は一体誰なのかしら?」

聖と燕が談笑していると、途端に現れる殺気。

それは自分に向けられている。

いつもは空気のように希薄で、よほど注意していないと掴めないくらいかすかな気配なのに……。

おそらく聖の護衛か何かなのだろうが、姿を隠していてもその存在は燕には察知できた。

それほど、主人が他の人と話していることが気に食わないのだろう。

そう、その様子は……


「まるで、   みたい」


くすりと笑った瞬間、脳に走る激痛。

燕は布団の中で、目をつむり頭を抱えた。

瞼の裏に浮かぶのは、人と談笑している自分。それを面白くなさそうに見ている子ども。

意識を集中するが、そのシルエットはぼやけ、やがて消えてしまった。

しかし、これだけは言える。

(自分は、同じようなことを経験した覚えがある?)

そして、あの子は……

頭痛が治まっていくと同時に、燕の意識は闇の中に溶けていった。


「綺麗ですね、それ」

そういってますずが指差したのは、椿が腰に差している刀の鍔。

金製のそれには、乱れ咲く椿の文様が刻まれている。

「そうか? 実は姉上と揃いでな、姉上のには」

「あーもう、その先はいいです」

速攻で話を打ち切られて、椿は不機嫌そうに顔をしかめた。

「ムゥ……話しかけたのはお前だぞ」

「椿さんの話のネタって、お姉さんの事しかないんですかぁ~」

罰のおつかいの帰り道。

月明かりの下、黄金の鍔は星のごとく瞬いていた。


 ***


もう12月ですね!

一年が過ぎるのは早いです。

そしてこの『Sweet Wars』、今回で何気に10話目です……一体どこまで続くやら(汗)。