6月某日
劇団事務所にチワワがやってきた。体長20cmくらいでクリクリお目目でこちらを見つめてくる。そのチワワの入ったバスケットを抱えていた人物はやせ形で眼光の鋭い男だった。
「誰だろうこの人?」と戸惑っていたら、事務所の奥から友部さんがやってきて
「菅野さん、お久しぶりです」と声をかけた。
菅野さん?菅野さんってあの菅野さん?『娘に語る祖国』をはじめあらゆるエッセイや小説に登場した菅野さん?韓国の女優さんの足型をとって靴をプレゼントした菅野さん?私の想像の中の菅野さんは、小柄で愛嬌のある顔つきで、ニコニコしていそうな人だったのに、この目の前の男が菅野さん?
この目の前の人があの菅野さんで間違いなかった。当時のRUP(制作会社)の事務所の隣にペットのコジマがあって、そのコジマでチワワを買ってきたとのこと。
「なんで?」
私と友部さんの声が重なった。
遡ること1時間、RUPの事務所にいた菅野さんに1本の電話がかかってきた。
「隣のコジマで犬を買って来てくれ」
とだけ言ってガチャリときれた。
菅野さんは悩んだそうだ。
犬?犬を買って来てくれってどういうこと?
隣でってことは本物の犬ってこと?
とにかく隣に行ってみよう。とその場にいた岡村さんとペットショップに向かったそうだ。
コジマに足を踏み入れてからも、どういうこと?と思いながら劇団事務所に何度も電話をするが、誰も出なかった。私と友部さんは、つか先生に言われて犬の写真を撮りに行っていた。

ペットショップでは、小さな子犬たちが何匹もいて、菅野さんは、その中で一番かわいい子を1時間くらいかけて悩んで選んで、タクシーで劇団事務所に向かったそうだ。
で、今に至る。菅野さんの後ろには、『演劇入門邪馬台国の謎』に登場した岡村さん。
「で、どういうことよ?」
とRUP二人から詰め寄られる友部さんと犬の着ぐるみを来た私。初対面で犬の着ぐるみなのに、そのことについては二人とも免疫があるのか全く触れてこない。それよりも本物の犬を買ってこいと言われた謎の方が重要なのである。

そのとき、つか先生が事務所に戻って来られた。
「お、来たか」
というとバスケットから子犬を抱き上げ、
「この子の名前はペーにしよう」
菅「あの、どういうことでしょうか?」
「劇団10周年のプレゼントだよ。お前(RUP)からの」
すべてを悟ったかのように岡村さんは、さっき友部さんに突き付けていた30万円とかかれたコジマの領収書をそっとポケットにしまった。
『売春捜査官』
作 つかこうへい
2025年 10月 17 日(金)~19日(日)
17日(金)19:30 ☆
18日(土)19:00☆
19日(日)14:00☆
Wキャストなので☆回に出演します
入場料 無料
会場 高円寺 K’s スタジオ本館
(東京都杉並区梅里 1-22-22
パラシオン高円寺 B1-100 号)
ご予約はこちらから
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