平成最後の年、幕開けは倉山満先生の講義です。

 昨年のサッカーワールドカップでの日本対ポーランド戦について、当時マスコミでは「武士道に反する」との意見も多く、ずいぶん「武士道の精神」が取り上げられました。

 この「武士道」について、倉山先生の見解は大変分かりやすく、興味深く私たちを今日の本題である「武士道の日本史」へと誘ってくださいました。

 

 

 私達がイメージする「武士道」という言葉は、新渡戸稲造が著書とした「武士道」が根底にあります。しかしこの「武士道」はあくまで太平の世である徳川時代の規範であり、戦国以前の武士の規範とはまるで異なるということ。源平の時代など、武士は荒々しい態度で戦っていたことを考えると、やはり注意すべき点もあると感じます。

「武士道」執筆のきっかけはドイツ留学中の出来事だったとも言われています。今の日本では「無宗教」であることが大きな影響を及ぼすことはありませんが、海外では全く考え方が異なります。「宗教教育もないのに、日本人はどうやって善悪を区別するのか」という点で、世界との隔たりを感じます。日本人の多くは「無宗教ではなく、不可知論である」と先生はお話しされましたが、こうした違いやが新渡戸稲造を「武士道」執筆に向かわせたのだと思います。

 

 

 さて、歴史をさかのぼれば、弥生、飛鳥時代など、生きるための術として、また権力争いなど、様々な背景の中で戦いが行われてきました。こうした中で源平時代ともいわれる平安末期には源氏と平氏が勢力を競い合ってきましたが、平氏の滅亡、源頼朝の鎌倉幕府の確立により武家政権が誕生しました。

 

 源頼朝が鎌倉幕府を開いた理由は①貴種、②裁判の公正、③ブレーンを登用する本人の力量、といわれています。また、鎌倉幕府の特徴として、将軍と御家人の主従関係は「御恩と奉公」と呼ばれる互恵関係によって保持されています。

この中で、鎌倉武士の本質は、「徴税」と「裁判」であり、権力や地位、財産(土地)を守ることでした。鎌倉の「武士道」は武士政権のための法令「御成敗式目」が基本であり、この御成敗式目は「困ったときは先例に学び、うまくいかないときは常識にならう」というものです。

 永い歴史を刻んできた鎌倉幕府でしたが、モンゴル帝国の襲来などによって衰退していき、時代は室町へとその姿を移していきます。

 

 室町時代の背景は、実力主義にして権威主義。「人に言うことを聞かせる論理」となります。こうした背景のなかで、自分の家族、一族を守るためには「一所懸命」でなければなりません。書いて字の如く、「一つの所で(財産を守ってくれる人のために)」「命を懸ける」のです。

 

 足利義満の時代に国内は安定したものの、応仁の乱や明応の政変以降は戦国時代を迎えます。また実力主義と権威主義の同時進行の時代で下克上といわれて力のある者が生き残っていく時代でした。このような時代背景の中で、室町~戦国時代は策略と裏切りの智慧が合戦を制したともいえるでしょう。徳川家康のプロパガンダを資料に載せていただきましたが、さて、いくつ「ウソ」が混ざっていたでしょう。このように本当の中に「ウソ」を混ぜることがプロパガンダといい(ある政治的意図のもとに主義や思想を強調する言葉)、遥か昔から使われてきた手法であることも驚きです。

 

 

 戦国時代から江戸時代になると、武士の生活は大きく変化します。

江戸時代の武士は今でいう公務員のようなものだと考えられます。

大名は、外様大名として扱われたり、関東や近畿地方などの要地からは遠ざけられ、以前の武家政権のように幕政に関与することはなくなりました。また、武家諸法度によって大名は厳しく統制され、全国の要所は直轄領として幕府の役人が統治を行うようになりました。そして、安定的に平和が続くことで、多くの武士が行政的活動に転じたことがその理由だと考えられます。

 

 

 こうして武士道の歴史を振り返ってみた時、ワールドカップでの日本の戦い方が「武士道」に反していたのでしょうか。改めて「武士道」の成り立ちを考える良い機会になったのではないかと思います。

 

 「武士道」という言葉から歴史を見ると、私たちが思い描くものとはまた違う景色が見えてきます。

目的を遂行するために、情報を収集、分析し、伝えていくこと。

自分の意思を人に知らせ、信頼を勝ち取ること。

表面的な言葉に踊らされることなく、教養として学び、知識を深めて言葉の意味や歴史をできるだけ正確に読み取ることが「武士道」の一面ではないかと感じた講義でした。

 

(文責 村上)

 

これまでの活動

 

1.奪われた日本の歴史を取り戻すことの意義 神谷 宗幣

2.近世からの500年の歴史を振り返ると見えてくるもの  神谷 宗幣

3.日韓の歴史問題についてのワークショップ 神谷 宗幣

4.大東亜戦争は本当に終わったのか? 吉重 丈夫氏

5.人種差別から読み解く大東亜戦争 岩田 温氏

6.日本国憲法の制定過程を学ぶ 岩田 温氏

7.日本人はどのように学んできたか~学問と国史~ 久野 潤氏

8.大東亜戦争とインドネシアの独立 長谷川司氏

9.グローバル化の歴史と失われる日本の強み 施 光恒氏

10.歴史に学ぶ日本人の気概 久野 潤氏

 

11.情報戦の歴史  北野 尚人氏

12.日本の国体論と戦後教育 吉重 丈夫氏

13.阿波古事記と日本人の幸福感 、失われた倭国  三村 隆範氏

14.神話から学ぶ、日本の歴史 中東弘氏

15.GHQの検閲政策 岩田温氏

16.薩摩の原動力となった郷中教育と西郷隆盛 西郷隆夫氏

17.「歴史戦」はオンナの闘い 杉田 水脈氏

18.日本はなぜ大東亜戦争に敗れたのか〜経緯と原因〜 久野  潤氏

19.台湾と日本の交流の歴史と今後の展望 李久惟(ジョー・リー)氏 

20.「金融支配体制の歴史とマインドコントロール」 池田 整治氏

 

21.沖縄問題の起源:講和条約と沖縄の処理 ロバート・D・エルドリッヂ氏

22.沖縄返還と日米関係 ロバート・D・エルドリッヂ氏

23.尖閣問題と日米関係 ロバート・D・エルドリッヂ氏

24.日米同盟の形成と展開 ロバート・D・エルドリッヂ氏

25.日本人が知っておくべき「戦争」の話 京本 和也(KAZUYA)氏

26.自由民権運動の真実   黒田 裕樹氏

27.世界を動かす共産主義とグローバリズムの歴史 吉重 丈夫氏

28.近現代史を学べば日本人の意識は変わる 神谷 宗幣

29.「国難を救った明治の大政治家」小村寿太郎の情勢判断能力と胆力  林 英臣氏

 

30.大日本帝国憲法の真実 黒田 裕樹氏

31.「明治維新の世界的意義」~西郷兄弟物語~ 中島 剛氏

32.「大河ドラマを横目に改めて学ぶ西郷隆盛」  久野 潤氏

33.「日本の歴史のターニングポイントを確認する」 神谷 宗幣

34.「日本の歴史と日本の精神」   神谷 宗幣

36.「十七条憲法と創生の神々」   小名木 善行

37.「イザナギ・イザナミと古代の朝鮮半島情勢」   小名木 善行

38.「大航海時代と大国主」   小名木 善行

39.「唐の皇帝と日本の天皇」   小名木 善行

40.「稲作の歴史と古墳のお話」   小名木 善行