今回は「大河ドラマを横目に改めて学ぶ西郷隆盛」というテーマで久野先生にお話しいただきました。

 西郷隆盛の人物像については4月の勉強会でも取り上げていただき、少しはその人となりを知ることができたように感じていました。そして今回の勉強会で新たな一面も教えていただいたことで、よりいっそう西郷隆盛を近くに感じることができました。

 

 

 薩摩藩に伝わる「郷中教育」を受けた西郷隆盛は、特に武道に励んでいましたが、けんかの仲裁で右腕をけがしたことで武道の道を断たれました。そのため学問で身を立てるべく猛勉強したことが後の西郷隆盛を形づくったとも言えます。そして西郷隆盛自身の持って生まれた気質によって素晴らしい仲間や多くの志士たちが彼を慕い、激動の時代を駆け抜けたのだと思います。

 

 

 彼が生きた時代、幕末の日本では、外国船が頻繁に日本近海に現れるようになり、江戸幕府に対して開国を要求しました。日本は開国か攘夷か選択を迫られる事態に陥ります。そうした中で生まれた考え方が、「尊王」と「公武合体」です。

 

尊王(そんのう)、すなわち天皇を第一と考えるのは、当時の国民のほとんどがそうでした。日本で一番偉い人は天皇であり、徳川将軍は政治を代行していると言う考え方が浸透していたので、普通の武士や志士にとって大事な人は天皇でした。

 「公武合体」の「公」は朝廷をさし、「武」は武家である江戸幕府を意味します。外国船が頻繁に日本近海に訪れ、開国を要求されるという難局に、幕府の力だけでは立ち向かう事ができないと考え、朝廷と幕府を合体させるくらいの一枚岩にして対処しようとした考え方です。弱まりつつある幕府の体制を、朝廷の伝統的権威と結びつけることで、政治を建て直そうとする考えです。このような大きな二つの考え方の中で、幕府のためにではなく、天皇のためと言う尊王論と、外国人を追い払うと言う攘夷論が結びついて、下級武士を中心として「尊王攘夷運動」がおこりますが、大老、井伊直弼が朝廷の許可を得ずに、攘夷とは真逆の開国を決めたことで時代は大きく変化します。

 

 

 時代のうねりの中で、西郷隆盛は彼の藩主、島津斉彬に見いだされ、大きな仕事を任されていきます。しかし、島津斉彬の死後、島津斉彬や月照(京都・清水寺の僧侶)などへの忠義として殉死を試みたり、奄美大島や沖永良部島などへの島流しにあうなど、数奇な運命をたどります。しかし、逆境に耐え、希にみる経験を経て培われた人間力が、戊辰戦争での活躍、江戸城の無血開城、敵に対する温情的な対応などにつながり、庶民からも慕われる要因になったと言えるでしょう。

 

 

 西郷隆盛の座右の銘は「敬天愛人」。天を敬って、人を愛すると言う事です。

自分のことを慕ってくる者がいる限りは、その人たちのために尽くす。それが自らへの天命であるという生き方を貫いたのだと感じます。

彼は政府軍に負けると分かっていても、西南戦争という手段で、新政府のやり方に疑問を呈しました。彼を慕って薩摩に集まったら者たちの気持ちを優先したのだと思います。そして維新の英雄でありながら、逆賊の汚名を背負って命を絶つ選択をします。

 

政治的解決能力に優れていたと言う事だけでなく、決して自分が出世する為でもなく、人の失敗を許して、人のために生きていたことが分かります。

 

現在、西郷隆盛の功績を称え、また多くの人々に慕われたことで、南洲神社が点在しています。そして東京上野にある「西郷さん」の銅像をはじめとして、各地に銅像が祀られており、私たちはいつでも西郷さんに会うことができるのです。

 

 明治維新という新しい幕開けに伴い、武家政権を失ったことにより日本の思想が揺らぎ始めました。明治から150年を経て、今の日本の状況はどうでしょう。本来の日本精神を忘れ、私利私欲、保身にまみれる人が後を絶ちません。この状況を「西郷さん」が見たらどのように感じることでしょう。

 気概に溢れ、未来の日本のために獅子奮迅の想いを持って生き抜いた人々が私たちの今を支えているのです。

 

 大河ドラマで「西郷どん」と親しまれている彼や、この時代の大いなる志士たちに敬意を払い、本来の日本精神を取り戻す努力をすることが、私たちの責務だと感じました。

 

事務局 村上

 

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これまでの活動

1.奪われた日本の歴史を取り戻すことの意義 神谷宗幣
2.近世からの500年の歴史を振り返ると見えてくるもの  神谷宗幣
3.日韓の歴史問題についてのワークショップ 神谷宗幣
4.大東亜戦争は本当に終わったのか? 吉重丈夫氏 
5.人種差別から読み解く大東亜戦争 岩田温氏
6.日本国憲法の制定過程を学ぶ 岩田温氏
7.日本人はどのように学んできたか~学問と国史~ 久野潤氏
8.大東亜戦争とインドネシアの独立 長谷川司氏 
9.グローバル化の歴史と失われる日本の強み 施光恒氏
10.歴史に学ぶ日本人の気概 久野潤氏

11.情報戦の歴史  北野尚人氏
12.日本の国体論と戦後教育 吉重丈夫氏
13.阿波古事記と日本人の幸福感 、失われた倭国  三村隆範氏
14.神話から学ぶ、日本の歴史 中東弘氏
15.GHQの検閲政策 岩田温氏
16.薩摩の原動力となった郷中教育と西郷隆盛 西郷隆夫氏
17.「歴史戦」はオンナの闘い 杉田水脈氏
18.日本はなぜ大東亜戦争に敗れたのか〜経緯と原因〜 久野潤氏
19.台湾と日本の交流の歴史と今後の展望 李久惟(ジョー・リー)氏 
20.「金融支配体制の歴史とマインドコントロール」 池田整治氏
 

21.沖縄問題の起源:講和条約と沖縄の処理 ロバート・D・エルドリッヂ氏
22.沖縄返還と日米関係 ロバート・D・エルドリッヂ氏
23.尖閣問題と日米関係 ロバート・D・エルドリッヂ氏
24.日米同盟の形成と展開 ロバート・D・エルドリッヂ氏
25.日本人が知っておくべき「戦争」の話 京本和也(KAZUYA)氏
26.自由民権運動の真実 黒田裕樹氏
27.世界を動かす共産主義とグローバリズムの歴史 吉重丈夫氏

28.近現代史を学べば日本人の意識は変わる 神谷宗幣氏

29.「国難を救った明治の大政治家」小村寿太郎の情勢判断能力と

  胆力  林 英臣氏

30.大日本帝国憲法の真実 黒田 裕樹氏

 

31.「明治維新の世界的意義」~西郷兄弟物語~ 中島 剛氏

32.「大河ドラマを横目に改めて学ぶ西郷隆盛」  久野 潤氏