けんた君とは、彼が暮らす乳児院で会うことになった。


乳児院といっても2階建ての戸建てが3棟並んでいるだけで、パッと見ただけでは、そこが何かの施設とは思わない。

ただ、フェンスゲートの錠前が高いところについていたり、庭に遊具が並んでいたりと、小さな子がいるんだな、ということは見てとれる。


その内の一棟の2階広間には、関係者が集まっていた。


総勢9人。


乳児院のスタッフにケースワーカー、心理士、児相スタッフ、NPOスタッフ、そして俺ら二人。


一人の子に対して、これだけ大勢の人が関わっていることが心強く思える。



改めて、けんた君の家庭状況や乳児院での様子が伝えられ、いよいよ彼が呼ばれてくる段となった。


スタッフに連れられてやってきたけんた君は、ひょこっと顔を出し、満面の笑みで部屋にいる大人を見回した。


目のクリクリしたかわいい男の子だ。


照れながらも自己紹介してくれて、俺らの向かいに座った。

ウェルカムブックを見せた時、犬や猫に興味をひかれていたと聞いていたので、色々と犬猫の写真を持って行っていた。それを見せながら、テーブル越しに話をしていく。


これは山に行った時の写真、これはひなたぼっこしてる写真。


アルバムをめくるたび、けんた君は写真に釘付けで、だんだん体が乗り出してくる。

写真の細かいところにも気づいて、色々と質問してくれる。


その後、1時間ほど一緒に遊ぶ時間が作られた。

部屋には子供用のブロックやおもちゃが置いてあって、実は来た時から触ってみたくてしかたなかった。


「急に1時間と言われても、持て余しちゃうこともあるんです」

と、児相の方が、実親さんとの面会の様子を教えてくれたことがあったが、俺の場合、その心配はない。

ブロックとか、おもちゃの細かなギミックが大好きで、子供そっちのけで遊んでしまう。

使い方を知っているけんた君が色々と説明してくれてるのに、さっそくブロックをいじりだす。

組み合わせて車を作って走らせると、けんた君も先生役を放り出して、もう一台作った車でレースになった。

大勢の大人がいる中、キャッキャ言って遊んでしまう。


あとからツレに

「子供が二人おった」

と言われるほど、どっちが遊んでもらったのか分からない1時間。


「じゃ、今日はこれで」

と児相の方が切り上げようとすると、けんた君は「じゃあねー」と全員にハグをして、スタッフと一緒に部屋をでていった。


とても楽しかった。

次に会う日を楽しみに帰っている途中、


「けんた君、がんばっとったよ」

と呟いたツレの一言にハッとする。



そうか、彼はがんばっていたのだ。



知らない人が大勢いる中、笑顔をふりまき、遊び相手をし、ハグをしてさよならを言う。

ただただ遊んでいた俺とは違い、彼は自分の置かれた状況を理解し、自分のできる精一杯をこなしていたのだ。


子供ひとり、大勢の大人に囲まれていた状況が、どれだけ不自然だったかに気づく。

それを受け入れてしまえるけんた君の順応性が、どこから来たのかを考えると、自分がたいがいノンキだったのが恥ずかしくなった。