会議室に、係長、里親係、ケースワーカー、心理士、NPOのスタッフが集まっていた。
委託を予定している子は、けんた君。
5歳の男の子だ。
名前と年齢だけを知らされて、今日ここにやってきた。
ケースワーカーの方から、家庭の状況や委託理由の説明があり、心理士の方から、けんた君の様子や性格を教えてもらう。
一年前、家庭の事情で緊急一時保護され乳児院に入り、ずっとそこで暮らしているという。
一時保護が一年続いてることが異常だったし、本来2歳までの子供が対象の乳児院に、5歳のけんた君がいることも不思議だった。
それについては係長から説明が入る。
保護当初から、家庭での養育はしばらく難しいという判断で、実親さんには里親に預けることを推していたものの、ずっと了解が得られなかったらしい。
それどころか、支援サービスもことごとく拒否され、膠着状態が続いていた。
受け入れは、児童養護施設に空きがなく、乳児院での生活が続いている。
最近になって、実親さんの状況が徐々に改善し、1年越しでやっと里親委託に同意が得られたのだ。
目標として、小学校に入る前には、実親さんのもとに返したいとのことだった。
と言うことは、最低でも一年ちょっとはうちで暮らすことになる。
「今回も、男性カップルの里親さんということは伝えています。」
と係長は言った。
「むしろ、何というか乗り気で…」
と苦笑いしながら小声で続いた一言。
実親さんが、どんな気持ちなのか、推しはかることしかできないけれど、里親に預けるって、やっぱり不安だろうと思う。
返してもらえないんじゃないかという恐怖、自分への苛立ち、里親への嫉妬…
そういう気持ちに対して、ゲイカップルという立場がうまくはまってくれるなら、嬉しいとまでは言わないけど、まあ、よかったなと思う。
今度、実際にけんた君に会うことになった。
それを経て、委託を受けるか決めることになる。
写真もまだ見せてもらえない、コピーの許されない記憶の中だけの書類の文章から、どんな子なんだろうと想像を膨らませている。