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誰かの理想。

小説という名の理想世界

 TODAY'S 本を探しに行くはずが、スターバックスの店員に1日を奪われている……



次に読む本を探す為、車を走らせ、近くのイオンの駐車場に車を停めた。


一階に入っているチェーン店の本屋に足を向かわせていると、スターバックスコーヒーが目に止まった。

(そういえばコーヒー豆が切れてたな…)


元々僕は特別コーヒーが好きなわけではない。


ただ、母の趣味で実家にコーヒーメーカーとミルが置いてあった。


自分でコーヒーを挽いて、淹れるという非日常感を味わうのが好きでたまーーに飲んでいた。


それから1人暮らしをするようになり、なんでもない休日になんとなく一式揃えてしまい、たまーーに飲んでいたが、相変わらず特にこだわりは持っていなかった。


というかこだわり以前に味の違いを感じてみようと思ったことすらない。


休日にコーヒー豆を挽くなんて粋だな、おっしゃれ〜なんて思っていたバカである。






店内に入り、入口近くの棚に並んでいるコーヒー豆を見比べてみる。


前買った豆は期間限定のものだったので、近いものがどれなのか見当もつかない。


すると案の定若い女性の店員さんが話しかけてきた。


以前買った豆の特徴を伝えるとすぐに「ちょっと待っててください」と言われ奥に行ってしまう。


(ああ。もっと詳しい人が出てくるのかなー。別にそんなにこだわりもないんだけどなー。テキトーに選んでもらうだけでいいのに。)


少しするとまたその店員さんが戻ってきた。


持ってきたコンパクトなノートをペラペラとめくる。


各ページにビッシリと豆の特徴が女の子らしい小さくてキレイな文字で綴られている。


そのノートを見た時点でその人のコーヒーに対する熱意というか愛情みたいなものが感じられた。


「どれでした?」と言いながらそのページを見せてくる。


わかりやすいように袋のパッケージが描かれたシールが各ページに貼ってあり、2、3ページめくったところに見覚えのある柄があった。


「あ、これです」


そう発すると、女性は丁寧に今売っているものの中で近いものを教えてくれた。


熱意が先走りそうになり早口になるのを抑えているような姿を見て、コーヒー愛が少し伝染した気がした。


アドバイスに従って前のと同じようなものを250gと、タイプは違うが美味しかったと勧められた期間限定のものを試しに100g注文した。


レジに行き、豆とは別にカプチーノを注文し、出来上がるのを待っていると、先程の女性が何かを持って話しかけてきた。




COFFEE PASSPORTと書かれたものは先程持っていたノートと同じものだった。


もっとも、店員さんのは大事に大事に汚れていたが。


「味を書いておくと忘れないし、コーヒーを楽しめますよ」


そう言ってくる笑顔にまたまたコーヒー愛が伝染してくる。


先程みたパッケージシールの今回買ったものも一緒に渡され、新しいおもちゃを手にした子供の気分になる。


家に戻り早速コーヒーを淹れ、小さなノートを開く。


前半はコーヒーの説明や美味しい淹れ方が書いてあり、後半はそれぞれのコーヒーの特徴や感想を自由に書き込めるようになっていた。




スターバックスの戦略に心の中で感嘆する。

これをもらってしまうとそれぞれのページに文字を埋めたくなってくる。

まんまと経営戦略にハマっている気がするが、悪い気はしない。

なにより、前半の説明ページがまるで先程の女性に説明されている気がして、飛ばすことなく読んでしまった。

スターバックスはここまで計算しているのだろうか。

末恐ろしいと思いながら口角が上がる。



勧められたコーヒーを飲んでみると前よりも酸味は少し強い気がしたが、美味しかった。

とか言ってるが、前のと本当に味の違いがわかっているかというわれると自信はない。

しかし、味の違いを感じてみよう、わかるようになりたいとちょっとだけ思わせてくれるようなそんな休日を過ごせたことに満足感を覚えた。

本を買い、家で読むつもりがてんで違う方向に予定が狂ってしまった。今日という休日はあの店員さんに奪われてしまった。この借りは後日しっかり返そうと思う。「次のオススメは何ですか?」という言葉を添えて。