誰かの理想。

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小説という名の理想世界

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嫌われる勇気

 

前回に続き、「今夜、世界からこの涙が消えても」について買いていこうと思う。

綿矢泉はトラウマを抱えたまま大学生活を送っており、そこから脱却する為に必死に過去を忘れようと努力していた。

成瀬透という後輩が物語序盤から登場し、一度恋人関係になった。

世間的一般論である恋愛のトラウマは新たな恋愛によって相殺しようという説を実行しようとしたわけである。

しかしながら、泉の抱えた過去はその一般論では上書きできず、成瀬に対して誠実さに欠ける行動であると判断し、早々と別れを決断することになる。

 

この決断は間違ってはいないと個人的には思う。

しかしどうしても僕自身が泉の真似をできない点がある。

本気の好意を持っている成瀬に対して、表面的な恋愛ごっこをすることで過去を忘れるのに利用したと認めたことである。

ここまで相手に向き合って、自分の犯した過ちを認めることが僕にはできない。

この行動は相手に「私はあなたとの恋人関係をもてあそびました」と受け取られる可能性があると思う。

嫌われようとすることが、別れる相手への最大限の敬意であり義務であるということなのだろう。

頭の中で理解はできるのだが、行動に移すにはとても勇気がいる。

人間誰しも他人には嫌われたくないと思うのが本音だろう。

ましてや過去の僕のように、別れた後にも連絡をとり、愛想を尽かされるまでダラダラと関係を続けてしまうダメ人間も存在したりする。

そんな僕からすると、この嫌われる勇気には脱帽しかない。

さすがと言えるカッコよさである。

 

 

忘れなくていい

 

そんな泉であったが、最終的には少し幼さが残り、精神的にも、恋愛経験値的にも未熟であった成瀬と結ばれるわけである。

完璧にフラれた成瀬は写真という目標を立て、自分を磨き、魅力を作り出してもう一度泉の前に現れる。

そこで泉は初めて自分の背負ってきた気持ちを打ち明ける。

対して成瀬が返した言葉が今作の最も印象的な言葉である。

 

「忘れられないものを、無理に忘れる必要なんてないんです。いや、忘れなくていいんです。だって先輩は…神谷さんのことを愛していたんだから」

 

これにより、泉はようやくトラウマから解放されることとなる。

 

過去の恋愛から解放されるきっかけはこのような視点の変換にあるのかもしれない。

どうしても忘れられない恋愛は自分の一部として大切に保管しておく。

乗り越えて克服するのではなく、それを糧にして今よりも成長していく。

そうしていくことで少しずつ大人へと近づいていく。

そんな解決方法もあるよと問いかけてきてくれるような作品であった。

今現在過去に囚われている方も、そうでない方も、未来に向けて進んでいくにあたって、心の片隅に持っておいて損はない言葉であると思う。