報われない恋愛
人は誰しも報われない恋愛というものを一度くらいは経験したことがあるのではないか。
好意を抱いていても相手に振り向いてもらえないといった片思いであったり、恋人関係に発展したとしても環境の変化などですれ違いが生じ、心が離れて行ったりと十人十色な経験談が存在すると思う。
そんな中でも、自分自身が相手に強い未練や気持ちが残っている場合の失恋は心に深く傷を残し、良くも悪くも美化した状態で過去として刻まれていく。
今回読んだ作品はそんな過去の恋愛のトラウマを描いたものである。
前回取り上げた「今夜、世界からこの恋が消えても」が良かったため、その続編の「今夜、世界からこの涙が消えても」を本屋で見つけて、思考する前に手に取ってしまった。
余談になるが、僕は本を購入するとその本屋の名が刻まれたブックカバーを必ず纏わせ、読破したのちにそれを外して棚に戻すという決まりを持っている。
しかしながら、買う頻度に対して読むスピードが全く追いついていないため、この本が自宅の本棚に来てから表紙がベールを脱ぐまでにだいぶ時間が経過してしまった。
したがって、久しぶりに表紙と対面したわけのだが、前作と比較してみるとこれがとても作品を表しており、読む前後で大きく見方が変わった。
ぜひ読んだ後に表紙をもう一度見比べてみてほしい。
※この先ネタバレ注意
今夜、世界からこの涙が消えても
前作では日野真織と神谷透の物語であったが、今作は真織の親友である綿矢泉に焦点を変えている。
二人の友人の儚い恋愛を見守っていた脇役ポジションの泉であったが、実は陰ながら透に好意を抱いていたというストーリー展開である。
前回でも触れた自己犠牲が今回にも適用されており、より一層泉の優しさを感じ取れる。
真織から透を奪ってしまうと単純に恋人を奪うだけではなく、親友という自らの存在まで奪ってしまう。
自分が引けば一人分の犠牲だけで済む。
この冷静な判断をできるスマートさが泉の長所であり、短所でもある。
恋と咳は隠すことができない。
しかしながら物語中盤で泉は真織に恋心を見抜かれてしまう。
「恋と咳は隠すことができない。」
作中に登場する格言であるが、この言葉通りに透の前で感情が漏れてきてしまう。
それに気づいた真織は自分が記憶障害というハンデを背負っている現状が泉にストッパーをかけていると悟り、邪魔者は私であると自らを責める。
対して、泉は二人への友情と透から真織への気持ちに対する信頼を口にする。
そして、これからも隠し通す代わりに恋愛感情を持ち続けてもいいかと問いかけていく…
抱いてしまった恋心と二人への敬意とも呼べるような友情の狭間で揺れる泉の心情を見事に表現されている。
改めて、恐ろしいくらい非のない友情関係である。
もう少し自分を出してもいいのではないだろうか。
登場人物たちが眩しすぎて直視できないほど純粋である。
しかし、それこそが今作の良さであり、青春を思い起こさせてくれる。
理想と共感
ほとんどの恋愛小説は登場人物全てが非現実的なほど完璧であり、この完璧さによって甘い理想の世界へ連れて行ってもらえることが最大の醍醐味である。
そしてその理想郷の登場人物の心情にどれだけスムーズに我々の共感を誘えるかで作品の良し悪しが決まると思う。
今回の二作品では理想と共感のバランスがよく、とても読みやすく感じた。
書かれていた言葉が違和感なく自分の中に落とし込めるということはやはり作者が上手いのだろう。
長くなってしまってので、今回はここまでとし、次回は泉がトラウマを乗り越えて行った過程について触れていこうと思う。
ここまで読んで頂き感謝します。
