以前、図書館で借りようとしたら、なんと!数十人待ちで、待ちくたびれて保留になっていた本を近所の書店で見つけました。
「兎の眼」灰谷健次郎さんの本です。



舞台は工業地帯にあるゴミ焼却場が側にある小学校。環境は劣悪で終日煙霧でどんよりしているような町にある小学校のお話しです。処理所の煙突から灰をとりだすころには学校にも人家にも白いものが降るというひどさ...その中で育つ子どもたちと新米先生が繰り広げるお話しなんだけど、これがまた生き生きとしているんです。登場人物が。特に脇役の存在が際だっていて、思わず読み出したら止まらなくなりました。

1974年に刊行とあるので私が中学生の時の本なのね。
この灰谷さん自身も先生だったそうで、お辞めになって”学校もの”を書いたことで現場から逃げたという避難の声もあったらしいですが...まぁ、この中にも出てくる小学校のシステムが未だに今も変わっていないことに驚きますね。私自身、子どもを持って小学校に通わせているのでわかる部分も多いんだけど、出てくる学校側のシステムや、PTAの人たちや保護者の方々の感じすっごくわかります。

そして、この本には意外にもかなり泣かされましたよ。
3回くらい泣きました。
ほんと意外な涙です。
泣くような本だとは思っていなかったので....自分でも驚きました。些細な描写だけどずーんと胸に来るシーンがあるんですよ。

1年生を担当する小谷先生。クラスの個性的な子どもと向き合いつつ、時には親御さんの苦情にも向き合いつつ、へこたれそうになって泣くわ、泣くわ。かなりの泣き虫先生です。でも壁にぶつかり続けながらも小谷先生は先輩の先生にも励まされ、悩みつつも諦めずにもっともっと子どもたちと向き合うことで、やっと最後には希望が見えてきます。

ある日、先生は研究授業の時に子どもたちに文章をたくさん書かせるために大きな大きな箱を持って現れます。
そして黒板には「なに?」のひとこと。

箱のなかに何が入っているか考えてねと言いつつ、どんどん箱を開けていくと、最初はテレビの箱、そしてまた開けると夏みかんの箱が...子どもたちは皆それを見ながらワクワク!先生は箱の中身がなかなか見えない状況で、子どもたちにどんどん見たこと、感じたこと、思ったことを文章にして書かせます。それを研究授業で見守っていた他の先生は感心。ふつう一年生はかんたんな文でもなかなか賭けないもの。さぁ、書きましょうといわれても全員がえんぴつを握るなんて考えられないと驚くのでした。

この研究授業の時、最初からひと言も話さず、書くこともせず、表情もなく無反応で大問題児だった男の子が、箱の中身が大好きな生きものだということがわかって一生懸命に文章を書きます。中にはザリガニが入っていたんだけど、男の子は...「(前略)ぼくは心がずんとした。ぼくは赤いやつがすき。小谷先生も好き」と書くところ....もぉー涙ボロボロでしたよ。この男の子に向き合って先生はとても努力します。最初は否定的だった先生も、この子が何に興味があるのかを考えて、その興味あることを一緒に勉強しながら男の子と触れ合います。

他にも、まだまだ先生と子どもたちの間に起きるドラマがいろいろなあるんですけど、そのちょっとした瞬間に涙がでます。この本は再度、何回か読み直してみようと思う本でした。その度に発見がありそうだし...

この間の村上龍の「希望の国のエクソダス」もそうだけど、子どもがいないときに読んでいたら、この「兎の眼」も、いまいちわからなかったかもしれません。現在、身近に子どものことがあるから、わかるのかもしれませんね。だけど、なんだかすごぉーく良い本でした。元気がでるというか。ROCK魂を感じるような脇役の登場でスカーっとするし、描かれている登場人物にそれぞれビートがあって良かったし、今の時代にもまったく通じるメッセージがある素敵な本でした。

世の中にあふれている本....
たくさんある物語の中で....

一体、どのストーリーが今の自分の心境にあうかどうかは、それぞれの人生の中において千差万別でしょうけれど、やはりいいなぁ....読んでよかったぁ!と思える本に出逢えるってとってもハッピーなことですね。

なによりも心の糧になります。