平成21年11月25日
(法制審議会ヒアリング資料)
「意 見 書」
1 「宙の会」結成の経緯
宙の会は、平成21年2月28日、殺人事件被害者の遺族が殺人罪に対する時効制度の撤廃及び停止さらに国家賠償を求めて結成致しました。
当会の目的は、時効制度の見直しを通して、究極的には生命の尊厳の精神 が国民に尊重され、安全な社会に至ることを願うところにあります。
現在、22殺人事件の被害者(新宿歌舞伎町の放火焼死被害者44人及び世田谷一家4人殺害事件等:計70人)遺族が会員として活動し、賛助会員として約100名の方が加入され、本年6月に法務大臣宛嘆願書提出時には4万5千人の署名者(その後継続署名計5万人)の賛同を得ております。
2 法制審議会に対する意見
私達殺人事件被害者遺族の思いは、他の刑事事件被害者・遺族と比較して、先ず被害者の主張および権利取得が全く叶うことがありません。そして、同時に殺害されたと同様の立場に立たされた私達遺族は、その後の人生がそれぞれ大きく狂わされた状況に、言葉に尽くせない無念の極みの思いがあります。
この世に生を受け、幼くして或いは志し半ばで、なぜ殺されなければならなかったのか。再び言葉交わすことも、抱きしめることも出来ないこの思いは、その立場になって、心髄から我が身の一部を捧げても戻るものなら戻して欲しいと神仏に祈ることさえあります。
多くの「犯罪被害者の会」が結成されて、被害者の権利及び被害者同士の共感を分かち合う活動が行われている中、殺人事件被害者の全国組織はありませんでした。
それは、
○ 発すべき被害者自身がこの世に存在しないこと
○ 遺族にとって、あまりの衝撃に平常心に至るまで相当の年月を要していること
○ 一方、なぜ救えなかったかと自責の念や社会の要らぬ風評(あのような所に行ったから、あのような仕事をしていたから等々)に悩まされてしまうこと
○ その後の家族が生きるために、平穏を保ちたいこと
このような諸々の条件から、無念でありながら無念の声を組織としてまとめることが出来ない状況にあったと、概ね説くことが出来ます。背景には、必ず警察が犯人を捕まえてくれるだろう、そして法が犯人を裁いてくれるだろうという期待感がありました。
しかし、司法制度の改革が進められる中、遺族として法律を見つめ直した時、加害者はかけがえのない生命を奪っておきながら、自らの生命は何らの償いもなく全うできる法制度の矛盾に大きな疑問をもちました。法律とは、人が幸せに生きる権利を保障したものではないのてしょうか。生きる権利を奪った人を保障する法律が法律なのでしょうか。このような疑問を持った私達は、自然発生的にお互い連絡を取り合うようになりました。
中でもロス疑惑の「三浦容疑者逮捕」は、私達にいくつかの点で示唆するものがありました。
○ 日本人が日本人を「米国」において殺害した容疑で、日本では一旦有罪としながら推定無罪となり、「米国」が裁いてくれることとなりました。加えて、もう一件の30年前の殺人容疑(被害者白石千鶴子さん)さえも捜査対象となっている。
「米国」には殺人に時効がない制度の法律効果を示してくれました。
○ また、DNA等で犯人が特定できる性犯罪等には、時効停止措置が出来る
という、未解決事件に対しての教訓事項がありました。
さらに、「英国人留学生殺害事件」も教訓の一つになりました。
○ そもそも時効制度のない英国人留学生が、「日本」において日本人に殺害されたことにより、時効制度の対象になってしまうという悲劇に日本国民として、国家の法体制の違いを実感させられました。
現在、両事件の被害者遺族
・ 米国在住ベーカー白石さん(被害者・白石千鶴子さんの姉)
・ 英国在住リンディ・ホーカーさん
とも「宙の会」会員として、わが国の時効制度撤廃に向けた活動に参加して頂いております。
このように他国と比較した場合に、国によって生命の尊厳のとらえ方は何故異なるのでしょうか、そもそもわが国の時効制度の根拠精神はどこにあるのでしょうか。自己問答の中で答えを見出せないでおります。報道の中には、「被害者感情」に流されることなく慎重に制度を見直すべきとの評論もありますが、私達も慎重に生命の尊厳を見据えた見直しを望んでおります。
さらに、私達会員の中には、すでに時効になった遺族の方も参加されております。時効になっても癒されることなく、むしろ被害者・娘さんに後押しされる思いで、後世の人のためにとの思いで参加していただいております。
その一人、札幌信金事件の生井さんは、犯人が特定され全国指名手配されながら、時効に至り、せめて犯人としての証を示したいという思いから、民事訴訟を起こし、約1億円に至る賠償判決を得ました。しかし、国家が判決を出しても、実態は得られることのない判決内容の矛盾を抱えています。
一方、本日出席されている広島県廿日市市女子高生事件の北口さんの場合は、わずか約3ヶ月の違いで、時効が15年のままという、法適用の時間の格差に矛盾を感じているところです。
最後に!
結論として、「宙の会」を代表して申し上げたいことは、人の生命の尊さに、時間の区切りはあり得ない、被害者も加害者も生命の尊さは同じということを、殺された一人一人の被害者になり代わって無念の内をお伝え申し上げ、法のあるべき正義を示していただきたいと願います。よろしくお願い申し上げます。
以上
(小林賢二代表幹事読み上げ)