平成21年9月9日
政権交代に伴う「宙の会」の公訴時効制度に関する
~ 緊 急 声 明 ~
「ある日」私たちは、かけがえのない大切な家族の生命を失いました。
一瞬にして私たちの生活も、「その時」を境に変わりました。
そして、毎年「命日」を迎えます。
故人となった家族との思い出は尽きなく、愛しさが込み上げます。思い出の中の時間は、「ある日」の「その時」から止まったままです。
私たちの両手・両足と換えられるのなら、両眼と換えられるのなら、尊い生命を返して欲しいと願うことさえあります。
しかし、どのように念じても、失われた生命は戻ってきません。あの楽しかったふれ合いの日々は戻ってきません。
一方、かけがえのない尊い生命を奪った未解決事件の犯人は、逃亡をしております。逃亡しながらも自らの生命を保ち続けているのです。
そして、我が国では法律によって、「ある時」が来れば何事もなかったように、一切の責任を負うことなく堂々と生きていけるのです。
○ 生命の尊厳・至高性について、法律は何故一方的なのでしょうか。
○ 生命の尊厳・至高性を法律は、法益の原点に捉えないのでしょうか。
○ 法律が示す正義とは、「ある時」までの限りある法益なのでしょうか。
○ 法律は生命を奪った者の生命を守り、奪われた戻らぬ生命は法益に含ま
れないのでしょうか。
そのような疑念を抱きつつ、本年2月28日、私たち「殺人事件被害者遺族」は「宙の会」を結成致しました。
そして、被害者の声なき声の代弁者として、人の生命の尊厳を極める社会こそが安全な街に至ると究極目標を定め、その為にはまず、人の生命の尊厳を奪って何らの責任を負わないという時効制度の撤廃こそが法律のあるべき道理ではないかと国民に訴えて参りました。
この間の「国民の声」、そして「法務省の対応」、さらに「民主党・公明党・自民党の順で応じたヒアリング」の過程で、時効制度の撤廃、加えて遡及の論点まで取り上げていただき、方向性に光明を見出しているところです。
この度の新政権には、これまでの方向性が一層加速することを大いに期待しております。新政権のマニフェストには「国民の声」を重視し、「国民の生活第一」と掲げている政策実行の主張から、国民の安全につながる時効制度の見直しについては、喫緊の課題として受け止めていただけるものと確信しております。
公訴時効制度は、「刑事訴訟法第250条」の規程により、法定の時間経過後は、公権力が容疑者の訴追・刑罰を課すことを禁じるというものであります。
そもそも英米法系の国では、昔から凶悪事件に公訴時効がない中、我が国は明治近代化の名の下、1880年フランス法から、十分な検討もなく導入され、1908年に「10年」から「15年」に延長され、その後96年間変わらず2004年に「25年」に延長(05年施行)され現法規となっております。
公訴時効制度の趣旨について、一般的には
① 時の経過とともに、証拠が散逸して、正しい裁判を行うことが困難。
② 時の経過に伴い、被害者を含め社会一般の処罰感情が薄れる。
③ 犯人の事実上の継続している状態を尊重すべき。
などが挙げられております。しかし、いずれも多くの疑念が指摘され、充分な説明になり得ないことは、既に多くの報道等からも明らかになっていると思います。
私たちの事件である殺人事件に対する公訴時効制度は、国家が国家として発展するための第一の要諦である秩序の維持を保つための権力=すなわち刑罰権の行使を放棄するものであると考えます。
取り返すことの出来ない最も崇高な人の生命を奪った殺人行為に対して、国家が刑罰権を放棄することは法正義の実現に著しく反することと判断しております。
自らの行為に責任をもたない逃亡犯人に、国家が「ある時」を境に刑罰権を放棄することは、
・ 責任を果たすために自首した者、
また
・現場に留まり現行犯で逮捕された者、
或いは
・明らかな証拠を残して身元を明らかにして逮捕された者
と比較して、逃げ得を許すこととなり余りに理不尽と思われます。
証拠が散逸するとか、目撃者がいなくなるとか等の見解は、公訴の提起段階あるいは提起後に検討すべき問題であって、とにかく公訴提起の機会を残し、
「責任を問う機会・果たす機会」を国家責任において保つことこそ正義の実現といえるのではないでしょうか。
そのことが自分の行為に責任をもつ国民の意識改革を醸成し、秩序の安定に結びつくことになるのではないでしょうか。
以上の観点から政府に対し、平成21年5月3日付「時効制度撤廃に関する嘆願書」を提出しております。
私たち遺族の中には、多くの未解決事件の方がおります。
時効に至る前の事件解決を願いつつ、それでも支えとして時効撤廃を願い、さらに遡及の適用に至るよう、我が身を捧げる思いで願っております。
一日一日の経過が心に重く、時間との闘いを意識しております。
民主党のヒアリングの中で、元弁護士の議員が涙ながらに激励してくれたあの姿は、今脳裏に鮮明に焼きついております。
政権交代に伴い、ここにあらためて嘆願致します。
殺人事件被害者遺族の会・宙の会
会 長 宮沢 良行
代表幹事 小林 賢二 他一同