『空海散歩』そののち
天宮光啓法話集
『チベット巡礼記』
昔、チベットでこんな話を耳にした。
レンボウとソウシという二人の男性がいた。
ある日、二人で高原に出かけた。
そこでとても美しい花に出合った。
レンボウは、自分の気に入った花を摘んで家に持ち帰った。
ソウシは、風と一緒にゆらゆらと揺れる一輪の花に目がとまった。
そして、また今度この花に合うためにこの地を訪れようと思った。
レンボウが家に持ち帰った花は、しばらくの間、花瓶の中で美しく咲いていた。
しかし、日がたつにつれだんだんと元気がなくなり、やがて花びらすべてが散ってしまった。
レンボウは、あの高原にまた行こうとソウシを誘った。
しかし、ソウシはレンボウが花の面倒をまったくみなくなって枯らしたことを知り、首を縦には振らなかった。
ソウシは一人で高原に出かけた。
そして、まっしぐらに花のもとへと駆け寄った。
すると、以前と同じように、否(いな)、それ以上に花はキラキラとさらに輝きを増していた。
しばらくの間、ソウシは風にそよぐその花をじっと見つめていた。
そして、また次もこの花に逢いに来よう、そう固く心に誓った。
合掌
天宮光啓『チベット巡礼記』(ある花の物語)
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『空海散歩』そののち