佐々木です。

フェイスブックにも書いたのですが、
昨日は、講師の一人であるホーリーこと堀井先生の
「送る会」を生徒達とともにやりました。

彼は高校3年生の時に塾生となり、
大学合格後にそのまま講師として勤め、
在学中の4年間と卒業後の3ヶ月当塾に
在籍していました。

そして9月から地方の某大学の大学院生として
新たな生活を始めます。

彼はわりと線が細くて、決してぐいぐいと生徒を
引っ張るようなタイプではないのですが、
そのぶん人の気持ちを和ませる親しみやすさがあります。

昨日はそんな彼の人柄が
スタッフや生徒たちの気持ちと一つに溶け合い
何十年も心に残るような感動的な会になりました。

正直に言うとなかなかじっくり時間がとれなくて
会の進行はざっくりとしか決めていなかったのですが、
生徒達のお陰で進行もスムーズでした。

盛り上がってほしい時は盛り上がり、
話を聞いてほしい時は静かになり、
お菓子を食べてほしいときはお菓子を食べ(笑)、
とても協力的でした。

寄せ書きの色紙もびっしり埋まってしまい、
一枚ではとても収まらなくてもう一枚購入し、
2枚目もまたびっしり文字で埋まってしまいました。

佐々木敬一作詞作曲による彼のテーマソング
「今夜もホーリーナイト」というふざけた曲も
皆で大合唱してくれ、私自身のエゴも満たされました(笑)

普段あまり本音を出さない彼の口から、
初めての授業の時の不安だった気持ちや
生徒が自分を受け入れてくれた時の嬉しい気持ちを
話してくれた時、ぼろぼろと涙する子もいました。

彼自身4年と3ヶ月、うちの塾で授業をすることで
学んだことはたくさんあると思います。

これからまた新たな夢に向けて旅立つ彼ですが、
昨日のこと、そしてあの暖かいメッセージでぎっしりの
寄せ書きが、苦しい時に力になってくれることでしょう。

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さてさて。

月曜日と木曜日は塾人ストーリーの日です。
今日はその3回目。

前回、わざとらしく「?」が浮かぶような終わらせ方をしたので、
続きが気になっている方がいたら嬉しいのですが…。

一応、伏線のような、ヒントのようなものは書いておいたので
勘のいい方はN先生の怒りの理由はわかったかもしれません。

今回は、その解答編から始まります。

前回の話を忘れちゃった方、そもそも読んでいないかも?
という方は、
こちらを先に読んでくださいね。



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■佐々木の塾人ストーリー(3)プレッシャー
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殴られるかもしれない、と思って身を固くしていましたが、
幸か不幸か殴られはしませんでした。

車から降ろされたとは言え、
社員寮はもう目と鼻の先の場所だったので
歩いて帰るのにもまったく支障はありませんでした。

つまり、肉体的ダメージは皆無だったわけです。

しかし、精神的ダメージはハンパありません。

つい2、3分前までニコニコとしゃべっていた
N先生が私の一言で豹変してしまったのです。

そう、まさに「豹変」という言葉がぴったりです。

N先生とは、塾にいる時だけでなく、
プライベートでも仲良しでした。

私が自分の部屋で焼きそばを作っていると、
同じ2階に住む彼がノックもせずに
「おお、佐々木君。焼きそば作ってるんだ。おいしそうだね」
とか言いながら入って来て、最終的に二人で音楽を聴きながら
一緒に食べるというほどの仲です。

例えば、今までに急に彼が「キレた」ということが
何度かあれば、「またか」と思って納得もできたでしょう。
しかし、そういうことはいまだかつて一度としてなかったのです。

私は、驚きと悲しみと困惑でへとへとになった体で
もう一人同じ教室で働く先輩、E先生の部屋を訪れました。

そして一緒に、N先生の怒りの原因を探求してもらいました。

ヒントは、私の最後の一言、

「Fくんに言ったんですよ。N先生、どう?厳しい?って。
そしたら、『いや別にそんなことない』と言ってましたよ」

という言葉にしかありません。

でも、E先生のお陰で、疑問はあっさり氷塊しました。

「N先生はねえ、生徒とうまくいってないこと結構真剣に
悩んでるからねえ」
という言葉で、私の中のN先生に関する断片的な情報が
すべてつながったのです。

N先生が生徒達とのコミュニケーションのことで悩んでいる、
という話は彼自身の口から直接聞いて知っていました。

でも、それは後輩に対してのある種の気遣いとして
言っていることなのだと勝手に思っていました。

「うまくいってるように見えるかもしれないけど、
オレにだってこんな悩みがあるんだよ」というような。

だから、真剣に受け止めていなかったのです。

事実、N先生は生徒の学力を上げることにとても真剣な人で
オリジナルの問題プリントも大量に作っていたし、
教え方に関しても熱心に研究していて、独自の見解を持っていました。

そして実際、得点力(生徒に得点をとらせる力)があったのです。

私は、得点力のあるN先生が羨ましくもあり、尊敬もしていました。

私の中の価値観では、得点力があるんだから、
コミュニケーション上の悩みなんて大したことじゃない、
という決めつけがありました。

これは完全に言い訳ですが、N先生自身が、
生徒とうまくいっていないことを自虐的に、半ばギャグのようにして
私に話すことも多かったので、それほど深く悩んでいるとは
夢にも思わなかったのです。

「Fくんに言ったんですよ。N先生、どう?厳しい?って。
そしたら、『いや別にそんなことない』と言ってましたよ」

この中で一番まずかったのは、
「N先生、どう?厳しい?って」という部分だったということが
判明しました。

うまくいっていないことがわかっているのに、
生徒に自分の授業のことを聞かれる。それも1年後輩の新人講師に。
屈辱以外の何ものでもありません。

N先生は深く傷ついたと同時に、
「オマエ、何様のつもりだ?」という思いで
私に怒りをぶつけたのだと思います。

E先生に私は
「どうしたらいいんでしょう?明日合わせる顔がありません」
と聞いたら、
「素直に謝ったら?君たち仲いいから大丈夫だよ」
と言ってくれました。

そして実際、N先生はすぐに許してくれました。

この手痛い経験を通して、
いかに自分が自分のことしか考えていないか、
に気づかされました。

あの時はそれで精一杯だった、という言い訳も成り立ちますが、
配慮が足りなかったし、視野も狭かったし、
あんなに身近な人のことすらわかってあげられなかった自分が
情けなくもあります。

偉そうに、先輩の授業について生徒に聞くなどということは
いかに私が調子に乗っていたかを示す格好のエピソードだと
思います。

そして、このこととは別に、
私自身も大きな壁にぶちあたっていました。

N先生にはあって、私にはなかった得点力。

学習塾の世界では、自分が教えた生徒の得点が
自分への評価の一つとして大きな位置を占めます。

私は、昨年N先生が教えていたクラスも受け持っていたので
プレッシャーたるや半端ではありません。

数字はシビアです。

やはりN先生のようにある程度厳しさを持って接しなければ
得点力を上げるのは難しいのです。

しかし、それもやりすぎるとN先生のような悩みに陥ります。

生徒達をうまく盛り上げて明るく引っ張るのが
最もよい解決法なのですが、言うは易し…です。

通常授業の単元テストや講習の確認テスト、
そして学校の定期テストのたびにそのプレッシャーに
押しつぶされそうな自分がいました…。

生徒と仲良くわいわいやることが
コミュニケーションではないことにも
だんだん気づかされてきました。

不機嫌そうな退屈そうな表情で頬杖をつく中2女子、
説明の最中にHな私語ばかりを言って困惑させる中2男子、
近くを通るたびにシャツの裾を引っ張って甘えてくる中1男子…。

彼らに振り回され、生徒達の点数を上げられない自分が
情けなくて、寮でシャワーを浴びた時にだけ
こっそり声を上げて泣きました。

シャワーを全開にすれば、
その音で泣き声がかき消されると思ったからです。

(つづく)