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■佐々木の塾人ストーリー(2)初授業とショッキングな事件
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初授業は春期講習からでした。
たしかまだ卒業式を終えていない時期で、
半分大学生の状態でした。
担当したのは新中学2年生の英語です。
集団授指導ですが、人数は学校よりは少なめで、
20数人でした。
当然、めっちゃ緊張しました。
生徒達に渡すために20数冊のテキストを両手に抱えて教室に
入るのですが、それをよいしょと机の上に置こうとしたら
手が震えてバラバラと床に落としてしまいました。
元気のいい男の子が明るい声で言いました。
「先生、大丈夫?」
その一言で救われました。
(せ、先生?オレを先生と呼んでくれるのか?
先生と認めてくれるのか?)
もう、大喜びです。
何しろ、私が一番不安だったのは、
生徒達が自分を先生として認めてくれるかどうか、
ということだったからです。
お陰で何とか平静さを取り戻した私は、
「いやあ、今日が初授業でさあ、緊張してるんだよ。
テキスト落っことしちゃって、ごめんね~」
と正直に言いました。
さっきの男の子が
「へー、先生でも緊張するんだあ」
と言うので、
「そうそう。緊張するもんなんだよ~」
という和やかな感じで会話が進みました。
みんなの顔を見渡してみると、
なんとなく「受け入れられているな」
という雰囲気があり、ほっとしたのを覚えています。
前の日に、1年上のN先生に見てもらって練習したとおり
無事に授業を進めることができました。
(このN先生、あとで再登場するので覚えておいてくださいね)
授業が終わったあと、生徒達がこっちにやってきて
いろいろ話しかけてくれました。
これも私には驚きで、
とにかくどうやって生徒達と仲良くなったらいいか
ずっと悩んでいたので、オレって意外と人気者じゃん?
という勘違いが芽生えました。
今思うとお恥ずかしい限りですが、若気の至りということで
お許しください、
さて、私は大した苦労もせずにそこそこうまくいっていたせいで
調子に乗っていたのかもしれません。
そしてそれが原因で、ある事件が起きました。
私にとってはかなりショッキングな事件です。
先ほど出てきた1年先輩のN先生は、
同じ英語科担当で同じ社員寮に住んでいたせいもあって、
とても仲良くしてくださいました。
授業が終わった後にラーメン屋やファミリーレストランに寄って、
その大手塾にまつわるいろんな裏情報を教えてくれました。
時には買ったばかりの新車に乗せてくれたりもしました。
ある夜、私はいつものように食事を終えた後、N先生の新車の
助手席に乗せてもらっていました。
Fくんという男子生徒について話していました。
Fくんは、ついこの間まで私のクラスにいて、
N先生のクラスに移ったばかりでした。
Fくんはいい子なのですが、ちょっと危ういところがあり、
そのことについてしばらく私たちは話していました。
私はその時なにげなく、N先生に言いました。
「Fくんに言ったんですよ。N先生、どう?厳しい?って。
そしたら、『いや別にそんなことない』と言ってましたよ」
この直後です。
N先生は、キキキキキキーッと、急ブレーキを踏みました。
慣性の法則によって、私の体は前のめりに飛び出しそうになりました。
N先生はドアをバンッと開けて車から降り、
私にどなりつけました。
「降りろ!」
「降りろ!」
さっきまでの穏やかな顔が一転して、
N先生の顔は完全に鬼の形相になっていました。
私は、何がなんだかわからないまま車を降り、
怒れるN先生の罵声を浴びながら、ただただうつむくだけでした。
たぶん、泣いていたと思います。(つづく)