今年も残すところ数日となりました。皆様から頂いたご厚情に御礼申し上げます。

今年最後のブログはお話です。


笠地蔵(山形県真室川に伝わる話)


むかし、あったとさ。

むかし、ある村にじいとばあがありました。じいは毎日山へ行って、木を切って町で売り歩いておりました。その少しの銭で食べるものを買って暮らす、貧乏な家でした。正月が近づいてきたけど、お供えする餅もありません。じいとばあは相談して、また町へ木を売りに行くことにしました。

雪の降る日に、じいは、背中にどっさりと木を背負って、出かけていきました。村はずれの六地蔵さまが立っているところまで来ると、六地蔵さまは笠もかぶらないで雪のなか、だら、だら、とぬれていました。じいは、それを見ると

「地蔵さま、地蔵さま。必ず笠を買ってきて、帰りにかぶせ申しますから、待っててくださいよ」といいました。

 町に着くと、じいは、

「山から来た木売りのじいでござい。木はいりませんか」と売り歩きました。木はたちまち売れました。じいは大急ぎで、儲けた銭をべろっとだして、笠を買いました。そして、わら、わら、と山のほうへもどっていきました。

 雪のなかで、六地蔵さまたちは、まるで水に落ちたみたいにびしょびしょとぬれていました。じいは

「あらら、地蔵さま、地蔵さま。早く笠をかぶりなさってください。まず、まず、こんなにぬれて、どんなにか冷たいでしょう。笠をかぶせ申しますぞ」といいながら、ひとつひとつの地蔵さまに笠をかぶせていきました。けれども、木を売った銭では、笠は五つしか買えなくて、六つ目の地蔵さまにかぶせるものはありませんでした。

「地蔵さま、地蔵さま、なんともしかたないですから、おれのあててる、もっこふんどしをかぶせ申します。今朝あてたばかりですからな、どうも、ぶれいですけど」とあやまりながら、じいはもっこふんどしをはずして、いちばん最後の地蔵さまの頭にぺろっとかぶせました。そして、ばあの待っている家に帰りました。

「ばあさま、ばあさま、今帰ったで」

「ほお、今日はまた、背中に背負った木はぺろっと売れたようですな。よろしいことです」

「それでも、今日の銭は一文も残っていないんだ。実はな、村はずれの六地蔵さまが、雪のなか、何一つかぶりものも持たないで、だら、だらとぬれていたので、木を売った銭で笠を買ってかぶせ申すと約束した。銭はぺろり、笠代にしたとこよ。米や餅は買わないで帰ってきた」

「じいさま、じいさま。そりゃよかった。おらたちはお湯飲んで、寝るとしましょう。村のはずれでびしょぬれになっている地蔵さまたちに正月させてやりましょう」

「あのな、ばあさまや。笠は五つしか買えなかったので、最後の地蔵さまに、失礼だけども、おれのあててたもっこふんどしをかぶせ申してきたとこよ。罰があたらないだろうか」

 ふたりは、少し心配しいしい、それでも夜になったので、お湯だけを飲んで、早くねることにしました。

 その夜中、外のほうで、何か音がするのでふたりは目をさましました。

「ばあさま、ばあさま。ずいぶんにぎやかな音がするな。いったいなんだろう。こっちにむかってくるようだが」

 じいとばあは起きだして、そっと外をみてみました。なんと、じいがもっこふんどしをかぶせた地蔵さまが先立ちして、六地蔵さまたちがこちらにむかってやってくるのがみえました。

「ばあさま、ばあさま、おらがもっこふんどしをかぶせ申したのが悪かったのじゃないか。こっちに向かってやってくるよ」

「じいさま、なんだか歌いながらやってくるよ」


   雪のふるとき、編み笠買ってかんぶせた

   じいが家はどこだべな

   ばんばの家はどこだべな

   えいこらしゃのさあ


と、歌う声がしました。じいとばあは青くなりました。


   雪のふるとき、編み笠買ってかんぶせた

   じいが家はどこだべな

   ばんばの家はどこだべな

   えいこらしゃのさあ


まだ、歌っています。とうとう、家の近くまで、地蔵さまの行列がやってきました。じいとばあは叱られてもいいと思って声をかけました。

「おらたちの家はここだ、ここだ。六地蔵さまや、おらたちの家はここですて」と、顔を出してさけぶと、

「あ、ほんとうだ。このじいさまだぞ。みんな、ここだとよ」と、もっこふんどしをかぶった地蔵さまが先になって戸をあけました。そして、六地蔵さまは、袋に入った金(きん)だの銭だの、反物だの綿だの絹だの、餅だの魚だの、たくさんの宝物やごちそうを車からおろして、じゃらん、じゃらんと、じいの家の入口に積み上げました。六地蔵さまは

「じいさま、じいさま。さっきはほんとうにありがたかった。これをあげていくから、ふたりでらくらくと暮らしなさいよ」というと、また村はずれに向かって、引き返して行きました。

 じいとばあは気絶するような気分で、その宝物を見ていました。

「ばあさま、ばあさま。こんなにりっぱなものばかり授けられたんだもの、あしたからは木なんか切らなくてもいいわな」

 それから、じいとばあは、らくらくと暮らしましたとさ。

 とんびすかんこ ねっけど


「笠地蔵」は学校の教科書でならったという方も多いと思います。ところが、今の子供たちは教科書でならうことはありません。1980年ごろ、国語教材の見直しが国によって行われた時、この昔話は「暗い貧乏物語」だと評されて、子供たちに読ませるにふさわしくないとされたためです。でも、山形の話では、たくましく、明るく、ちょっぴりのんきなじいさまとばあさまが、尊い地蔵に対して、礼儀より信義を重んじる力強い人物像の話として伝わっています。

皆様にも、じいとばあがもらったようなたくさんの宝ものが届くようにお祈りして、年末のご挨拶に代えます。

幸せな一年の終わりと、新たな一年の始まりが豊かでありますよう。


★JHS事務局の年内の業務は、本日28日で終了いたしました。

 年始は1月5日から平常通りに業務を開始いたします。