呑酸の酷い逆流性食道炎(食道裂孔ヘルニア)の整体治療と心理療法
患者Rさん=42才-女性-主婦/自営業の症例
① Rさんの病歴・・・「一日に何十回も胃酸が上逆します」
患者Rさんは、半年ほど前に精神的なストレスから腹痛や下痢などの不調が生じたそうです。そこで近医を受診し、胃カメラ等の検査を受けたところ、ピロリ菌感染との指摘を受け、除菌治療を受けたそうです。ところがその除菌薬を服用した初日の夜に容態は急変し、激しい胃痛-腹痛と下痢や大量の呑酸、および軽度の呼吸困難に見舞われたそうです。担当医との相談で、当該除菌薬の服用を中止し、その後別の薬をいくつか変えて服用したそうですが、結局悪化し続けたので、再度胃カメラ検査をする事になったそうです。その胃カメラ検査では、胃や食道に炎症などの異常は無い、との事でしたが、やはり胃痛と呑酸は毎日続き、最近では制酸剤の処方を受けていたそうです。しかしそれでも呑酸は悪化し続け、一日中、何十回も胃から粘液状のものが上逆し続けるので、現在は薬の服用はしていないそうです。
② Rさんの診察
・二度の胃カメラ検査とも、食道や胃の炎症などの異常は確認されず、食道裂孔ヘルニアやバレット食道の指摘も無かったそうです。
・血圧はやや低めで、血液検査でも異常は指摘されなかったそうです。
・胃痛の部位は心窩部で、キリキリとした痛みが日常的にあるそうです。その真裏に当たる背中にも重だるい痛みが続いているそうです。また剣状突起から胸骨の下1/3程度まで胸焼け様の痛みがあるそうです。
・呑酸は毎日あり、何十回も出るそうです。特に食後が一番ひどく、臥位のときにも増えるそうです。食間でも粘液上の呑酸がひっきりなしに上がってくるそうです。またRさん自身は、胃酸過多症だと思っているそうです。
・咽喉のつっかえる感じがあり、時おりピリピリとした痛みもあるそうです。特に嚥下時には強くなるそうです。
・ゲップは少し多い程度だそうです。吐き気はあまり無いそうです。
・現在の食欲は普通だそうですが、逆流性食道炎になる以前に比べて、体重が5kgほど減ったそうです。(現在の身長と体重=153cm、40kg) 元来、胃腸は強い方との事で、去年までは満腹になるまで食べる事が多かったそうです。
・現在の排便は普通で、毎日あるそうです。
・月経周期は25~30日で、月経期間は3~4日だそうです。生理痛や過多月経なども、ほとんど無かったそうです。ただ3か月前に月経が合ったきりで、この三か月間は無月経の状態だそうです。
・お子さんは二人(19才、17才)で、二人とも安産だったそうです。
・中耳炎、鼻炎-副鼻腔炎、口内炎-歯周病に罹患した事は、記憶にないそうです。虫歯は子供の頃は時々あったそうですが、成人してからは、ほぼ無いそうです。ただ20代の頃に、気管支炎or咳喘息様の症状が1年近く続いたことがあるそうです(☚結局病名は不明との事)。数年前に胸部レントゲンを撮ったところ、肺の一部に炎症の痕と思われる陰影が写っていたそうです。
・腹部聴診上、グル音は極めて弱く、血管雑音は聴取されませんでした。
・水の飲水時での心窩部聴診では、飲水より25秒後くらいに小さな排泄音がありました。その排泄音の最強位置は剣状突起よりやや上方の左側にありました。
・胸頸部聴診上、心音、呼吸音に特段の所見はありませんでした。また血管雑音もありませんでした。
・胸部触診上、右胸骨有縁(R4,5,6,7)で、著明な緊張と圧痛がありました。また左胸骨有縁(R2,3,4)付近の押圧では、気持ちよさがあったそうです。
・肝叩打痛や脾叩打痛、あるいは背中の叩打痛で、特段の所見はありませんでした。
・腹部触診上、心窩部に著明な緊張と圧痛がありました。回盲部から左季肋部にかけても同様の緊張と圧痛があり、特に回盲部の押圧で心窩部に放散痛が生じました。また左季肋部(十二指腸空腸曲付近)にも著明な緊張と圧痛があり、同部の押圧で背中痛が誘発されました。左季肋部では、胃底部と肋骨弓の間に緊張がありました。右季肋部(十二指腸球部付近)と左下腹部にも著明な緊張と圧痛がありました。
・(14診目-追加の問診次項) 今回の逆流性食道炎発症のキッカケとなった「半年ほど前に精神的なストレス」について尋ねると、その問題は未だ解決していず、尾を引きずっているそうです。そのせいもあって、今まで良好だった夫婦仲も多少ギクシャクしているそうです。その精神的ストレスは、知人の病死がきっかけだったそうですが、そこから自身の深層心理的な葛藤にまで発展し、不安感、恐怖感、無力感が全身を包んでいる様な状況である、との事だそうです。
➂ 治療目標と整体治療…下部食道括約筋の筋力を回復する !!
⑴ 胃~十二指腸~トレイツ筋の緊張・疲労を回復する
⑵ 下部食道括約筋の緊張・疲労・筋力低下を回復し、胃酸の逆流を阻止する
⑶ 想定される食道裂孔ヘルニアを牽引し、定位置に戻す
⑷ 腸間膜根の緊張を解放する
⑸ 腹腔動脈、上・下腸間膜動脈、横隔動脈食道枝の瞬間を促進する
⑹ 中枢および末梢の自律神経失調を回復する
⑺ 心理的ストレスを解消する
・胃腸平滑筋テクニック
・下部食道括約筋解放テクニック
・食道裂孔ヘルニア解放テクニック
・消化管平滑筋テクニック
・腸間膜根解放テクニック
・トレイツ筋解放テクニック
・胃底癒着解放テクニック
・迷走神経解放テクニック
・頭蓋仙骨療法(オステオパシー)
・縦隔解放テクニック
・胸郭解放テクニック
・横隔膜解放テクニック
・腹腔動脈、上・下腸間膜動脈、横隔動脈食道枝解放テクニック
・心理療法(条件反射の消去手続きの指導)
・心理分析
④ 経過と結果…非常に困難な治療でしたが、何とかなりました !!
・初診治療直後、
Rさんは「お腹が軟らかくなった気がします。それと背中の痛みが消えて、スッキリとした感じがあります」と仰っていました。飲水して頂いた時の心窩部排泄音は剣状突起の高さで、飲水後12~3秒後に聴取できました。
・2診目来院時、
「いつも食後に酷くなる呑酸が、少しマシな気がします。背中痛もなく、スッキリ感が続いています」と仰っていました。ただ飲水後の心窩部の排泄音は、18秒にまで遅延していました。そこで迷走神経解放テクニックを施術して飲水して頂くと、排泄音は7~8秒にまで短縮していました。
・3診目来院時、
「食後の呑酸はマシでした。しかし横になるとまだ呑酸が出てきます。背中の痛みとみぞおちの痛みはほとんどありませんでした。」と仰っていました。ただ飲水後の心窩部の排泄音は、4~5秒後にまで縮まっていました。(この飲水後の心窩部の排泄音は、その後も20秒前後に延びたり、あるいは7~8秒後にまで縮まったりと、不安定な状況は、17診目くらいまで続いていました)
・5診目来院時、
「食後も寝ている時も、呑酸は6/10くらいまで減っています。喉のつかえ感と、背中と胸は少し痛みや違和感があります。」と仰っていました。そこで胸郭-縦隔の整体治療を追加したところ、背中と胸の痛みはかなり減ったそうです。咽喉の違和感は少し残っていたそうです。
・7診目来院時、
「背中痛は無かったですが、心窩部と右の胸部に少しだけ違和感(施術後の重感)がありました。呑酸は、今回は横になっている時は出なかったですが、食後に少し出た気がします。喉のつかえ感も少しだけありました」と仰っていました。
・9診目来院時、
「背中と心窩部の痛みも無く、喉のつかえ感も大分マシになりました。呑酸も食後も横になった時も半分以下になっています」と仰っていました。
・11診目来院時、
「呑酸は、食後も横になっている時も、以前の3~4/10程度で、大分楽になりました。背中や胸の痛みもほとんど感じませんでした。心窩部がたまにキリッとしたくらいです。」と仰っていました。
・12。13診目来院時には、
呑酸については以前の1~2/10程度にまで改善し、背中や胸の痛みも解消していたそうです。ところが14診目には、若干呑酸が悪化し、それが15診目にも続きました。それは、13診目来院時に「半年ほど前に精神的なストレス」の件について尋ねた事がキッカケでした。なぜお尋ねしたかというと、そのストレスが続いている限り、逆食の再発が高まる可能性があったからです。Rさんはそれに反応し、呑酸が悪化していたのでは、と思われたので、16診目からその解消のため、心理分析を取り入れることにしました。
・16診目、17診目と心理分析を取り入れた結果、
Rさんは自身の深層心理的な矛盾に気づくことが出来た様子でした。そのせいもあってか、18診目来院時には、呑酸は1~2/10程度にまで改善していました。
・19診目来院時、
「呑酸は、食後も横になっている時も、以前の1~2/10程度で、ほとんど気にならなくなっています。心窩部や背中の痛みも無く、気持ちよく過ごせました」と仰っていました。また飲水後の心窩部の排泄音は、18診目、19診目と10秒前後に安定したいました。20診目も同様でしたので、この段階で集中治療を終了してもよかったのですが、Rさんは「念のためにもう少し施術してほしいです」との事で、23診目まで集中治療を続け、そこで今回の集中治療を終了することにしました。
(追記)
集中治療が終了して約一か月後に、別件で連絡がありました。その際Rさんは「完全ではないのですが、以前よりだいぶんいいです。」と仰っていました。
下部食道括約筋だけでなく自律神経や精神面も影響していた ?!
◆ 食べ物の咽頭から胃までの通過時間は平均10秒…
・当院では逆流性食道炎患者の来院は多いですが、今回のRさんの症例では、二つの特徴が際立っていました。それは、頻回の呑酸と心窩部の排泄音の不安定性でした。
・先に心窩部の排泄音について記しますと、これは飲水後に水が食道を通過する時間を測定したものです。一般的に嚥下による飲食物の移動時間は、食道の最上部(上部食道括約筋)から胃の噴門(下部食道括約筋)まで、約10秒と言われています。この移動は、食道の輪状筋と縦走筋の協調運動=蠕動運動によって食物が食道内を通過する時間で、迷走神経の反射で制御されています。
◆ 咽頭から胃までの通過時間の乱れ、、、自律神経失調か?!
・ですからこの移動時間に乱れがあるという事は、食道の筋肉や迷走神経(自律神経)の失調などが疑われると思います。Rさんはこの移動時間が、最長では25秒で、最短では5~6秒と非常に幅が広く、かつ不安定でしたので、上記(食道の筋肉や迷走神経(自律神経)の失調など)の疑いが濃いのでは、と考えられました。
・Rさんは二度の胃カメラ検査で、食道の異常は認められなかったので、とりあえず食道の筋肉の異常を除外していいのでは、と思いました。ですからこの移動時間の不安定性は迷走神経(自律神経)の失調の可能性が高いのでは、と考えました。
◆ 下部食道括約筋の失調も自律神経が関係か?!
・下部食道括約筋(噴門)の括約機能は本来筋原性ですので、逆食治療に際しては同筋へのアプローチが一丁目一番地です。しかし下部食道括約筋(噴門)の括約機能は迷走神経からの信号も関与しているので、同神経の失調は下部食道括約筋の開口を招く可能性があり、呑酸の治療について同神経の失調状態の治療も必要と考えられました。
・そこで上記③「治療目標と整体治療」に掲げる⑸ 中枢および末梢の自律神経失調を回復する
目的で、
・迷走神経解放テクニック
・頭蓋仙骨療法(オステオパシー)
・縦隔解放テクニック
・胸郭解放テクニック
を施術する事にしたわけです。
◆ 自律神経失調状態の改善に心理分析を活用…
・ただRさんについては、⑴ 「Rさんの病歴」にもある様に、元々のキッカケは「半年ほど前に精神的なストレス」でしたから、上記整体治療だけでは不十分で、いずれは心理分析的なアプローチも必要になるかも、との思いがあり、それは14診目で現実化し、心理分析も取り入れる事になりました。
・心理分析の概要は、Rさんの潜在意識には「自己中」といった感情が強いのに、顕在意識的には「他者に寄り添う」といった偽善的な態度・行動が多かった事があり、その矛盾から来る葛藤-ストレスが限界を超えたところに、半年前のストレス性の腹痛や下痢などの不調が生じたのでは、というものでした。
・この分析結果からRさんは、「何も聖人君子の様にならなくても(自己中でも)、他者の為に役立つことは出来る」との思いに至ることが出来、自身の精神的ストレスを整理することが出来るようになったようです。
・結果的にこの頃から、自律神経治療である頭蓋仙骨療法(オステオパシー)の効き目も効果が出始め、先述の飲食物が食道内を通過する時間も10秒前後に安定する様になってきましたので、上記仮説で概ね妥当であったのでは、と思います。
◆ 胃平滑筋と下部食道括約筋の筋力を回復する整体…
・次に頻回の呑酸についてですが、当院ではこの様なケースでは、下部食道括約筋の筋力を回復する整体治療である、
・胃平滑筋テクニック
・下部食道括約筋解放テクニック
を中心に施術する事にしています。
・ただRさんについては、先述の飲水による心窩部の排泄音検査において、「その排泄音の最強位置は剣状突起よりやや上方の左側にありました。」との所見から(☚横隔膜より上方)、Rさんは食道裂孔ヘルニアを合併しているのでは、との疑いを持ちました。
当然その診断は医療機関でないとできませんし、またRさんが受診した病院では、二度の胃カメラ検査においても食道裂孔ヘルニアの指摘は無かったとの事なので、その真偽については不明のままです。
・ただ当院では、上記の疑いを元に、
・食道裂孔ヘルニア解放テクニック
も併せて施術する事にしました。そしてそれだけでなく、消化管全般に対するアプローチとして、
・消化管平滑筋テクニック
・腸間膜根解放テクニック
・トレイツ筋解放テクニック
・胃底癒着解放テクニック
も施術する事にし、またこれらの臓器への血流を改善する施術もしました。なぜなら、Rさんの様に呑酸が酷い患者さんは、下部食道括約筋だけが疲労困憊しているとは思えないからです。経験的にこの様な患者さんでは、胃-下部食道括約筋を含む、消化管全般が疲労困憊しているケースが多く、それらも同時に対処する方が、呑酸の軽減-治癒に近道だからです。実際Rさんは、その様な方だったのでは、と思われます。
・ところで今回のRさんの逆食治療を鑑みてみると、たかが逆食とはいえ、心理分析から中枢および末梢の自律神経、そして胃や下部食道括約筋は元より小腸や大腸を腹踏む消化管全般、および横隔膜、胸郭/縦隔など、ほぼ全身に渡るアプローチをしていた事になります。この結果から見ればRさんは、心身共にかなり重症な患者さんだったのかもしれません。
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