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なぜ大金持ちは幸せそうに見えないのか…精神科医が「人生に期待する人ほど不幸になる」と考える理由
人の悩みは「だいたい3種類」に分けられる
繊細な人や敏感な人は悩みやすい――皆さんも日々、そう実感しているでしょう。では実際に、私たちが多くの時間を費やしている「悩み」にはどんなものがあるでしょうか? 千差万別に見えて、意外と種類は少なめです。
ついでに言うと、繊細ではない人も、悩みの種類は変わりません。
繊細な人はしばしば「こんなに繊細でなければ、悩まなくていいのに……」と思うものですが、そんなこともないのです。生きている限り、人は悩みます。繊細であってもなくても、悩みのない人というのは、一人もいないのです。
ただ、繊細な人は、色々なストレスや悩みを増幅・発展させて(大きく、広く捉えて)、たくさんの時間を費やしてしまうのです。繊細でない人が軽く受け流すところで、しっかり立ち止まってしまう。ここが解決すべきポイントだと、まずは覚えておきましょう。
さて、話を戻します。人の悩みは「だいたい3種類」に分けることができます。お金と、健康と、人間関係です。
「いや、もっとあるでしょう」「災害や犯罪のニュースを見るだけで不安になってしまうのが悩みです」「私は劣等感が強くていつも悩んでいます」といった声も聞こえてきそうです。
元をたどれば「お金・健康・人間関係」に行き着く
前述の通り、繊細な人は「大きく・広く」捉えてしまうので、悩みのバリエーションが広がりがちです。しかし実はそれらも、3種類に集約することができます。
たとえば、災害や犯罪のニュース。それらの情報と接して悲しくなったり、不安になったりするとき、「自分の生命・安全」が脅かされる感覚になりませんか? それは広い意味で言えば「健康」を失う不安です。自分にも同じことが起こるかもしれない、という気持ちが、瞬時に発生するのです。
加えて、被災者や被害者のつらさを、まるで「自分事」のように感じることもありますよね。本人の認識では「人を心配している」状態ですが、それは実質、「自分の痛み」になっています。感情移入の力が働きすぎて、他者の苦しみまで一緒に苦しんでしまうのです。「やさしさ」は繊細な人の美点ですが、度をすぎると、心身をさいなむこともあります。
では、劣等感についてはどうでしょうか。これは一見、自分一人の内面で起こることのようですが、実は「人間関係」に入ります。劣等感は、一人では生じないからです。人と比べるからこそ「私はダメだ」「劣っている」という悩みになるのです。
ですから、劣等感を持つ人はきっと、「人に会うのがおっくう」とか、「自分より優れているに違いない人と接するのは緊張する」といった気持ちも、日々感じているはずです。
このように、多種多様に枝分かれしている悩みも、元をたどれば三つだけ。この三つとどう取り組むか、さらに見ていきましょう。
なぜ「大金持ち」は幸せそうに見えないのか
お金と、健康と、人間関係。私たちの時間を奪う「悩み」の元は、この三つです。この三つの悩みのうち、一番解決しやすいものはどれでしょうか。
お金は、なかなか手ごわいです。お金を得るのが大変だから……ではありません。大変な人も、そうでない人もいるでしょうが、そこは本質ではありません。お金は、「得たところでそれだけでは幸せにならない」。だから難題なのです。
お金があれば、生活の不安が軽減されることは確かです。お金が多ければ、人生の選択肢が増え、贅沢もできたりするというメリットはあります。
一方で、お金は、あってもなかなか100%の満足には達しないものです。あったらあったで、「もっと、もっと」という思いが強くなる人もいます。となると当然、「幸せ」は感じづらくなります。どんなに増えても同じです。「お金があるから完璧に幸せ」と言っている人に、私は会ったことがありません。
私は勉強のために色々な国のさまざまなセミナーやワークショップに参加してきましたが、その中にはいわゆる「大金持ち」と言われる人もいました。何百億から兆単位の資産がある人や、とてつもなく広い部屋で何千万円もする家具に囲まれて暮らしている人もいました。
でも、必ずしも幸せそうには見えませんでした。家族関係がうまくいかず寂しそうな人もいれば、しょっちゅう豪勢なパーティを開き、きらびやかな方々に囲まれつつ、とても退屈そうな人もいました。
お金は、生きていくのに必要なものであり、あれば選択肢は増えるけれども(そのため、拙著でも仕事の役に立つ話も書いています)、幸せな人生を手に入れるための「決定打」にはならないのです。
「人間関係」の悩みは一番解決しやすい
では、健康はどうでしょうか。健康は、お金とは別の意味で難題です。当たり前だけれどシビアな事実として、健康を永遠に維持するのは不可能です。
人は、いつか必ず生命を終えるからです。年齢を重ねるほど健康を損なうことが増えるのも、変えようのない事実です。しかし、だからこそ、元気な時間をできる限り長く過ごしたいと思いませんか?
そのために医者がいて、こうして本や記事を書いたりもするのです。なお繊細な人は、実際の健康状態にかかわらず、不調になりやすいところがあります。病気ではなくとも、痛みやつらさを感じやすいからです。この感じやすさによる体調のつらさも、軽減はできます。この本ではおいおい、その方法も語っていきましょう。
さて、最後に残ったのは人間関係です。これこそもっとも難題に違いない、と思われるでしょうか?
実は逆です。人間関係の悩みは、三つのうち、もっとも解決しやすいのです。さらに人間関係は、お金と違って、解決すれば、幸せに直結します。そして、健康と違って「一生モノ」の解決策があります。その解決策を、順を追って、お話ししていきましょう。
「軽く扱われている気がする」と傷つく
とくに繊細な人は、傷つきやすい人でもあります。何に傷つくのでしょうか? 原因は8~9割がた人間関係にあります。
「挨拶したのに無視された(感じ悪く返された)」「大事にしている価値観を否定された」「軽く扱われている気がする」など、人から大切にされていないと感じて傷つくのは、特別敏感な人でなくとも、よくあることです。
加えて、繊細さ・敏感さによって大きく感じられるストレスもあります。
たとえば、人と接したときに「自分が情けない」と思ってしまうという、繊細な人ならではの悩みです。「困っている人を助けられなかった」「親切にしたつもりが、見当違いだった」「変な言い方をして誤解させちゃったかも」「場が盛り上がらないのは、私のせい?」など、の終わりに思い出しては悩んだりしていませんか?
もしかしたら、思い出すのは、今日のことどころか、何年も前のことだったりするかもしれません。頭ではきっと、気にしすぎだとわかっているはずです。「そんなこと、いちいち気にしてたらキリがないよ」と人から言われた経験も、一度ならずあるでしょう。でも、やめられるなら苦労しないよ……と、思いますよね。
「期待しない」という防具を装着すべき
でも、気にするのをやめることはできます。自分を責める気持ちも、人の言動に傷つく気持ちも、止められます。その方法はただ一つ、「期待しない」です。これはすべてのお悩み対策の根幹と言っても良いくらいの重要事項です。
期待とは言うまでもなく、「良いことが実現するはず」と期待することです。一見ポジティブで、前向きな姿勢ですね。ところが、これこそが「傷つく・気にしすぎる」、つまり日ごろのチクチクした感情の原因なのです。
「大切にしてもらえる」と期待するから、そうならなかったときに傷つくのです。「自分ならできるはず」と思うから、できないときに傷つくのです。
当たり前のように、期待を抱いて生きていませんか? それは、丸腰で戦場に突っ込んでいくようなものです。傷つきやすい人ならなおさら、「期待しない」という防具を装着すべきです。
悩む時間は最小限のほうがいい
「期待しない」の方向性は、三つあります。
「○○してもらえるはず」と、人に期待しない
→相手が失礼だったり冷淡だったりしても、ガッカリしないで済みます。
「自分は○○できるはず」と、自分に期待しない
→自分を責めたり、「○○しなくては」と焦ったりしなくて済みます。
「○○によってうまくいく」と、結果に期待しない
→良い結果にならなくても、落胆せずに済みます。
結果、悩む時間を最小化できるのです。「何もかもあきらめろということ?」と思ったかもしれませんが、どうか誤解しないでください。決して「悲観的になれ」と言っているのではありません。
悲観的な態度とは、「しょせん他人は冷たい」「どうせ失敗する」「何をしてもうまくいくことはない」と、投げやりになることです。これはむしろ、期待が強すぎる状態です。
期待が強ければ強いほど、アテが外れたときの傷も深くなります。その反動で「どうせ……」と心を閉じるのが、悲観モードです。
今から実践できる「期待しない」練習方法
そうではなく、身につけるべきは、悲観でも楽観でもなく、フラットな態度です。「絶対にうまくいくはず」でもなく、「うまくいくはずない」でもなく、「さて、うまくいくかな?」くらいの気持ちでいると、結果もフラットに受け止められます。
悪い結果に落ち込まず、良い結果に浮かれず、「あ、そうか」「じゃ、次はどうする?」と、未来に目を向けることもできます。心が平穏になるうえに、前向きにもなれるのです。
「全然、できる気がしない」と思うかもしれませんね。たしかに、最初は難しいです。「期待しない」は、自転車と同じです。乗れるようになるには訓練が必要ですし、一定の練習期間がかかります。しかしいつかは必ず乗れるようになりますし、いったん乗れたら、もう乗り方を忘れることはありません。
「期待しない」の練習方法は、いたってシンプルです。何かにガッカリしたとき、「あ、期待してた」と思うだけ。
この気づきを地道に繰り返していると、いつしか要領がつかめてきます。それから、気づいたときに「また期待しちゃった、ダメだな……」と自分を責めないこと。気合を入れる必要もなく、普段はまったく意識しなくて結構です。
何かあって凹んでいる自分に気がついたら「あ、期待してたわ」と一瞬思い、すぐ忘れるのがコツ。このアッサリ感そのものが、「期待→ガッカリ」のクセから抜ける練習にもなっています。急がずのんびり、着実に取り組みましょう。