バイト先の短気なオッサンを観察していると、色んな事が分かってくるから面白い。
この人の現場での評価。
何でも馬鹿丁寧、しかしそこまでの事は求められていない。
この人が怒り出すのは、自分の考えに沿わない時。
このオッサンを観察していると「なるほど」と思えてくる。
色々観察していて分かった事は、このオッサンの怒りの原点は「不安」なのだ。
例えば「洗い」の仕事の時、マンションの廊下に付いている「蛍光灯」がある。
高圧洗浄機で廊下を洗う際、水が入らないように養生をする。
その養生の仕方が尋常ではない。
蛍光灯の本体からかなり離した所から養生のマスカーを貼り始める。
話して貼る理由が「絶対に入らないようにする」為らしい。
しかし、そこはコンクリート製の天井。
テープで止めてもすぐ剥がれて落ちてくる。
そこで、本体の金属部分にテープを横幅2/3程貼り、残りの1/3を天井に貼って養生してみた。
すると、「水が入ったらどうするんだ!」と怒る怒る。
ハッキリ言って、水が入ってもどうって事はない。
元々、屋外用の蛍光器具で、水が入る事を想定して作ってある。
もし水がスイッチ部に入っても乾けば問題なく使えるし、壊れたとしても2千円程度の代物だ。
昔リフォームの仕事をしていた時、散々取替え工事をした代物だ。
本体の金属部分にテープを貼ったのは、本体と天井との僅かな隙間を埋めるためだ。
オッサンは「壊れたらどうするんだ」と怒るが、壊れたら直せば良いし、そんなに簡単に壊れる物でもない。
まあ、高圧洗浄で壊れるとしたら、隙間めがけて長時間高圧水流を当て続けていれば壊れるかもしれない。
つまり、怒りの原動力となっている物は「壊れたらどうしよう」と言う「不安」である。
その他にも屋外用ガス給湯器、アンテナブースターボックス、全て防雨仕様になっていて、長時間直接高圧をかけなければ大丈夫なものばかり。
それら全てに「壊れたらどうするんだ」と言う言葉が付いて回る。
いや、構造知ってれば、ポイント抑えれば大丈夫。
蛍光灯の養生を、かなり離れた所から貼り始めるのは、自分なりの安全マージンを取りたいらしい。
安全マージンを取りたくて、離れた所から貼るのだが、コンクリートにテープ止めすれば、高圧かけたら直ぐに剥がれて大騒ぎ。
時間ばかりが過ぎて行き、工程は遅まくる。
このオッサン、人体標本の移動の仕事の時、怖がって結局人体標本のある建物の傍にも来る事は無かった。
結局「怖がり」なのだ。
怖いから怒り、不安だから怒る。
このオッサンを「不安」や「恐怖」と言う視点で観察していると、このオッサンの行動パターンが手に取るように分かって来る。
この人の「意に沿わない」事をすると怒るのも、意に沿わない事をされると、この人に取っては未知の領域に入ってしまうのだろう。
だから怒るのだ。
不安とは「知らない事」である。
知らないとは「未経験」や「無知」「未知」「想定外」などである。
そして自己の持つ「類似経験」などの統計的確立によって、不安の大きさが変わってくる。
未経験の出来事に遭遇した時、その類似経験や、関連する類似経験の量が多ければ不安は小さくなり、少なければ不安は大きくなる。
不安が大きければ前に進めず、不安が小さければ前に進みやすい。
面白いのが「バーチャル経験」である。
バーチャル経験は、事に遭遇するまでは、遭遇しても大丈夫と思い、実際に遭遇すると未経験波の不安に襲われる。
それが「知っている」と「知ったつもりになっている」の違いである。
結局「怒り」と言う感情は「不安」や「恐怖」から起こり、その根底に有る物は「知らない」と言う事なのだろう。