職人を辞めて今の仕事が専業になるのだが、これも山あり谷ありだった。


私の仕事仲間で、結構好きだった奴の話だ。


そいつは鍵師をしていた。

ひょんな事から、昔の居た会社の社長の紹介で、知り合う事になった。

そいつは、親分肌の人物で、色んな事を一緒に企画していたのだが、突然連絡が取れなくなった。


それから半年後に、そいつから連絡があり、親に修行に出されていたと言う事だった。

また、色々な企画を始めたのだが、また連絡が取れなくなってしまった。

次に、連絡が取れたのは「訃報」だった。

そいつも奥さんと離婚して荒れた生活を送っていたらしい。

特に、子煩悩親だったのだろう、子供と会えない事が一番堪えたらしい。


こいつも、覚せい剤に手を出した挙句、自殺してしまった。


それから、その下で働いていた奴が仕事を引き継ぐ事になった。

まあそいつとも結構馬が合った。


東京で、セキュリティーショーがあると教えると「ちょっと待って下さい」と言って、私の分の交通費まで持参して飛んでくる奴だった。

ある時、私が遊びで作っていたキャラクターを商品化したいと言う話になった。


そして、製作に入ったのだが、納入真近になって彼の親が倒れた。

そして、彼は入院費の工面で支払い困難に陥ってしまった。

その額、150万。


製作を依頼していた所は、私の付き合いのある所を紹介していたので、支払いできないでは済まない。

私は、別の物の販売で150万の利益が有ったので「売って返してくれ」とその額を肩代わりした。


最初は、祭りで屋台を出したり、土産物屋に売り込みに行ったり、皆で色々売り歩いたのだが、彼も体を壊して2ヶ月入院。

私も、急に予定していた収入が無くなってしまったので、本業に専念せざるを得なくなり、キャラクター販売は棚上げに・・・



その後、彼は消えた。


しかし、別に怒ってはいない。

自分の作ったキャラクターを形に出来て、夢は見られた。

彼も、体を壊さなかったら頑張っただろう。

自営業者が体を壊して2ヶ月も入院したら、目も当てられない。

人一倍責任感の強い奴だったから、収入も無く入院費もかかり、仕入をした支払いもしなくてはならない。

私も、自営業者でその大変さは知っている。

私は、金の事は一切口にしなかった。


しかし、彼は私の顔を見るたびに申し訳ない気持ちで一杯だったのだと思う。

入院中は、笑って話をしていても彼は私の目を見る事は無かった。


そんな金の事は気にしなくて良い、先代の店主の様に自殺だけはするなと願うだけだが、ついに貯金は底を突いた。


何か、もがけばもがくほど、金が消えて行く。



集団ストーカー―盗聴発見業者が見た真実 (晋遊舎ブラック新書 1)/古牧 和都