私がかつて働いていた会社の社長の話だ。


一つの会社の社長は、会社が破綻し今ではヒッキー、もう一つの会社の社長は上場を果たした。


この二人の社長は、性格的に同じタイプの人間で、常に自信に満ち溢れていた。

悪く言えば、自己愛の塊のような人だった。

常に「ヨイショ」されるのを好み、自分が中心にいないと不機嫌になる。

どちらの社長も、上場企業を目指し、VIP扱いされる事を好んだ。


この二人の社長が、明暗を分ける事になった大きな違いが一つある。


それは、最後は自分で解決する力が有るか無いかである。


上場を果たした会社の社長は、とにかく動く。

営業も、社員には負けないだけの営業力を持っていた。

その営業力の源は「気迫」だ。

最初から「絶対売らせる」「絶対買わせる」と言う気迫がすごかった。

そして、何より全ての業務を自分一人でも出来るだけの知識と行動力を持っていた。

社員がいなくても自分一人で何でも出来る力を持った人だった。

社員が結果を出せないと、自分が先頭を切り見事に成功させて見せた。

社長の手腕は尊敬に値する人だったが「ヨイショ」されるのが好きな人でも有った。

しかし部長、課長は「ヨイショ」の名人ばかり。


一番困った事が、スナックやクラブに連れて行かれる事だった。

何度も書いているが、私の家内はフィリピン人である。

当時のスナックやクラブはフィリピン人が多かった。

最初は「社長!社長!」と社長の周りにフィリピンのホステスが集まり、その時社長は上機嫌なのだが、社長は「こいつの奥さんはフィリピン人だぞ」と余計な事を言う。

するとフィリピンの人のホステスは全て私の周りに集結する。

別にモテている訳ではない、何処の出身かとか何処で知り合ったのかとか、色々聞いてくる訳だ。

ホステスに「社長に注いで」と社長の周りに何とか戻そうとするのだが、水割りを作ったらすぐに戻ってきてしまう。

自分の周りからホズテスが消えると、すぐに立ち上がり「次の店行くぞ」と言う社長の顔には「笑顔」が無い。

そんな「ヨイショ」好きな社長に「ヨイショ」の達人の部長・課長・・・・・

その部長と課長は「パワーハラスメント?」 で書いた人で、部下の成績が上がる事を快く思わない人だ。

当然私との確執も出てくる。

結局、大喧嘩の末に退職した。



会社を潰した社長も気迫は有ったのだが、何処か違う。

その会社は旅行会社だった。

私がそこの会社を辞める理由にもなったのだが、スキーツアーのパックを企画していた。

私自身、そのパックの企画責任者でも有った訳だが、最初から社長と意見がずれていた。

会社の利益を上げて内容の良いツアーを企画する為には、内容を落とさず原価を下げる必要がある。


その為、安くて良い宿を確保する為に交渉に行こうとすると「今まで付き合ってきたホテルとの付き合いが有るから新規開拓は駄目」と、認められなかった。

バス会社も、私が以前から付き合っていたバス会社に安くしてくれるように話をつけたら、今までのバス会社との付き合いがあるから駄目。


結局、企画段階でのコストダウン図れずに、パンフレットを作る運びになってしまった。

その時点で「こんな企画失敗するのが目に見えている」と社長と口論するが、社長は「今までこれでも客は集まった、最初から失敗すると思っていたら失敗する、とにかく言われた通りにやれ」と言われ、そのまま実行した。


しかし、パンフレットの反響がすこぶる悪い。

パンフレットの配布枚数に対する集客率が非常に低い。

パンフ配布後一週間の集客率のデータで予測すると、最終予測集客人数が出る。

その数字は、大赤字だ。

そこで、社長に今すぐ対策をするように進言したが、「一週間で何が分かる」と相手にされなかった。

データの予測を提示しても「そんな数字は今後変わる」と言って、何の対策も取らない。

そしてシーズン突入したのだが、一向に数字は上がらない。

そして社長が動いたのだが、それは「パンフレットの増刷と、配布人員の増強」だった。

私は、それに猛反対をした。

なぜなら、パンフレットの配布数に対する集客率と言う視点では、パンフレットを増刷して配布人員を増やせば赤字が拡大するだけだ。

その事を社長に説明しても、理解してくれない。

そして、増刷決定。

その時点での予測赤字は2千万円。

とりあえず、社長に独自で動く事だけを認めさせた。


私がかつて付き合っていたホテルやバス会社に頼み込み、それまでのコストを大幅に下げた。

それまで、バス1台18万円で引っ張っていた物を、8万円で引っ張り、現金を持って現地に飛び、ホテルの空室を調べ上げて、現金をちらつかせて安く叩いて客を放り込んだ。

名古屋と長野の往復を毎日続ける羽目になった。


そして、ツアー自体の赤字を1000万円の黒字まで持っていったが、会社自体のランニングコストに至らず会社は破綻。

そして、社長の言い草が「お前が長野に行って会社を見ていないからだ」と言われた。

社長は、ツアー自体が黒字に転換していたことは知らなかった。

そして私は会社を辞めた。


この社長は、前記の社長と気迫の方向が違った。

この社長は、たまたまHITした経験が忘れられず、この感覚を引きずっていた。

この社長が普段していた事は、取引先の人と遊ぶ事。

取引先とは、お金を支払う相手で、相手は顧客として持ち上げているだけなのだが、その「ヨイショ」が気持ち良かったのだろう・・・自己愛だから


「ヨイショ」されているから、取引に便宜を図り、高い金額で取引をして損をしていた。

支払いの段階で「ちょっと持って」と言った瞬間、掌を返されて会社が破綻した訳だ。

少し疑問だったのだが、1000万の黒字にしたにも拘らず、会社のランニングコスト割れ?

計算上は、ギリギリ損得無しのはずだった。

経理に聞いてその理由が分かった。

社長の交友費(接待費)が半端じゃなかった。

社長曰く、これからの時代は「人間関係で物を売る時代」・・・それは買ってもらう時の話しだろ!


そして、20年後にその社長と会う事になった。

その時、あの時の話が出たのだが、社長は「何がいけなかったのだろう?」と聞いてきた。

私は「あの時に予測したでしょう?最初の時には対策があった」と説明し、パンフの増刷を止めた事や、ツアー自体が黒字だった事を改めて説明した。

その時の言葉が「何で無理にでも止めてくれなかったんだ!」である。

どれだけ止めた事か・・・


そして、今はどんな仕事を?と聞いた。

すると2000年問題の仕事をしていると言った。(当時1999年)

しかしその社長はパソコンは素人、社員もいない、そんな人が2000年問題?

よくよく話を聞けば、2000年問題に取り組んでいる人に近付いて、おこぼれを貰おうとしているだけだった。


同じような性格の二人の社長の決定的な違い、それは最終的に「一人でも出来る」と言う点であろう。





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