小林製薬の危機対応にはがっかりー40年前のジョンソンエンドジョンソンの事例から学ぶべき | 日本ファミリーオフィス協会

小林製薬の危機対応にはがっかりー40年前のジョンソンエンドジョンソンの事例から学ぶべき

最近の小林製薬の紅麹事件。同社の対応の「遅さ」には唖然とする。小林製薬は言うまでもなく小林家のファミリービジネスだが、この会社は「ファミリービジネスの強み」は全く活かされていないと言わざるを得ない。小林社長は40年以上前のジョンソンエンドジョンソン社の「タイレノール事件」を知らないのであろうか。

 

この事件は、アメリカでのファミリービジネスへのイメージを大きく変えた歴史的なできごとで、ジョンソン社が「タイレノール」に異物が混入し死亡者が出た時に素早く製品を回収し、「ファミリービジネスの意思決定の迅速さと責任ある経営」を世界に見せつけた。広いアメリカで回収には100億円以上のコストがかかったようだが、ジョンソン社の得た「信用」はそれ以上だった。

 

まさか同業の小林社長がこんな基本的な事件を知らないはずがないが、それならなぜこういう事例から学ばないのか不思議だ。今回は「ピンチをチャンスに変える」絶好の機会ではなかったか。それとともに、まだまだ「遅れた経営」と思われている日本でのファミリービジネスを「実はすごい経営」だと知らしめる好機でもあった。同社得意のTVCMより、よほど効果があったと考える。

 

同社は伊藤邦雄教授が30年以上顧問をしている会社だが、伊藤先生からは「非常にいい会社」だと聞いていたので、個人的には非常に期待していた。しかし、今回の対応で「これではサラリーマン社長の会社によくある責任逃れと同じではないか」と感じ、期待を大きく裏切られた気持ちだ。

 

まだまだ日本のファミリービジネスはアメリカに比べて40年以上遅れているか、というのが率直な感想だが、全企業の98%を占め、GDPや雇用でも3分の2をファミリービジネスが占めている日本では、この分野がしっかりしないと経済成長も日本復活もない。

 

個々のファミリー企業が責任ある経営をしていくことが大前提だが、特に小林製薬のように目立っている企業はそれなりの社会的責任もある。多くの責任あるまともな経営をしているファミリー企業にも迷惑が及ぶのだ。今回の件で「やはり世襲はダメだ」と多くの人が感じ、いい世襲をしている企業まで同類項だと思われてしまう。

 

まだまだ日本のファミリービジネスが世界に伍する経営をするまでは時間がかかりそうだが、逆に「伸びしろもある」と考えて日本経済復活のために微力をつくしたい。その前に、当のファミリービジネスが責任を持った経営をすることが最低条件だが。