富裕層本の弱点―富裕層を本当の顧客にしていない人が書いている
世にいう「富裕層本」というのは大きな書店にいけば10冊くらいある。しかし残念ながらどれも実務には役立たない。なぜなら、本当の富裕層(成金ではなく金融資産が少なくても10億円以上)を本当の顧客(保険とか一部分ではなく、その人の資産、あるいは人生すべてを見ている)にしている著者は一人もいないからである。
もちろん、彼らは超富裕層と「コンタクト」はある。保険や自らの雑誌などを買ってもらったりしているからだ。でも付き合いはそれ以上ではない。だから内容もステレオタイプだ。アメリカの富裕層本からの引用が多く、富裕層は見る目が厳しいので自分を高めよう、とかお客様のためになることをしようとか精神論に終始している。実際に超富裕層との深い付き合いがないので、精神論にならざるを得ないのだ。
日本では、実際に超富裕層と深い付き合いをしている私のような独立したコンサルタントは皆無に近いだろう。もちろんプライベートバンクの日本支社は超富裕層を顧客にしているが、彼らの付き合いは運用(投信、ヘッジファンドなど)だけであることが多い。組織では多くの人を相手にしなければ採算が合わないので、特定の人との深い付き合いは難しいだろう。
私の場合は、お客様も10家族以内と絞っているので、ご家族の方々すべてを把握している。どこの家族で今どういう問題があるかも分かっている。そこから得られたさまざまな経験は、今後、富裕層ビジネスをしていく人たちへの参考になろう。
しかし、このノウハウを文書や映像に残すのは難しい。まず、超富裕層は「目立たちたくない」という特徴があるので、なかなか実名で本やテレビに出てくれない。それができれば非常に迫力があるのだが、以前、テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」で弊社が5分ほど紹介された時にも、お客様で出ていただけたのはお一人で、顔を隠してという条件付だった。
自分としてはノウハウの出し惜しみは一切するつもりはなく、むしろ開示したい(だから、持ち出しでNPOをやっている)のだが、実際の超富裕層の方々の意向もあり迫力のある生の声をお届けできないのがジレンマだ。
ともかく、100%満足いかないにせよ、自分の経験を公表していこうと思っている。現に、複数の出版社や雑誌社から突っつかれている。早くしろと。それにより日本の、特に金融界が少しでも変わっていくからだ。小さな成功から始まる「草の根からの改革」が私の信条とするところだから。