チエは小学生の頃、学校行事の遠足にも行ったことがない。
勿論、6年生最後の修学旅行も課外活動旅行にも参加したことはなかった。
両足の指がないので靴には特殊な加工がしてあったが、長い距離を歩いたりすることが出来なかった。
宿泊時、お風呂に入る時に足を見られるのも嫌だったのかも知れない。
そんなチエに私は、どうしても林間学校にも修学旅行に参加させたいと思っていた。
中学生活で、仲間達と思い出を作る貴重な行事だ。
これからの人生の中で、生きる選択の幅を狭くさせたくないとの思いが強かった。
しかし、現実は私とチエの関係は最悪の状態が続いていた。
チエがどうしも私に伝えなければならないことは、顔を伏せながら、紙に書いて渡してくる。
チエを傷つけた代償とはいえ、私も辛い日々を送っていた。
林間学校が近づき、保護者から参加承認のプリントを提出することになった。
予想通り、チエは不参加で提出してきた。
私は、どんなことをしてでもチエを連れて行こうと心に決めていた。
まずは、チエと仲良しの生徒たちに相談した。
彼女たちの答えは予想通りだった。
「先生、無理だよ、無理。チエちゃんは行かないよ。
行くわけ無いじゃない。
私もチエちゃんと同じだったら行かないよ。
小学生の頃から、行事には一度も参加していないのに、
今更行くわけないよ。
ましてや、担任が先生じゃねえ。あっ、ごめん。つい。」
確かにしょうがないと思った。
チエとの人間関係が崩壊している自分では、なにをどう励ましても、逆に頑なにしてしまうだろうと思った。
しかし、チエには、どうしても林間学校に参加させたかった。
ここまで、思っているのは自分しかいない。
自分が諦めたら、チエは人生唯一の中学2年生の林間学校での思い出をつくるチャンスを逃してしまう。
たとえ今以上に嫌われてもチエが喜んでくれればいい。
そんな思いがなぜか強くなっていくのが分かった。
なんとしてでも、どんなことをしてでも連れて行く。
明日は、チエの母親に相談してみよう。
チエの喜んでいる笑顔をイメージしながら、そう心に誓った。