チエの家は大邸宅だ。
父親は大きな会社を経営している。
母親は、父親の再婚相手だった。
チエと歳の離れた姉といってもおかしくない程、若かった。
チエには気を使っているのが分かる。
おそらく林間学校に参加するようにお願いしても、本人の意思を尊重するといって力になってくれる可能性は低い。
それでもすがる思いでお願いをした。
予想外の返事だった。
「実は、私も行かせたいと思っていました。
でも本人が嫌がるのを私がすすめても、とても聞いては貰えないと思います。
ただ、あの子にはたくさん思い出を作ってほしいと思っています。先生の思いを私からも伝えてみます。
担任の先生がそう思ってくれているのなら心強いです。」
やっと支援者がひとり現れたと思った。
2階にはチエがいる。
母親の了解をとってチエの部屋のドアをノックした。
返事はない。
そのまま、ドアの外から話しかけた。
「林間学校には、どんなことをしても君をつれていくから・・
当日の朝、かならず迎えにくるから・・
絶対に楽しい思い出がつくれるから・・」
切ないほど、説得力のない台詞しか出てこなかった。
勿論、チエの反応はなかった。
そして、林間学校の当日を迎えることになった。
朝6時にチエの家に向かった。
なんとしてでも連れていくという覚悟だった。
家の門に近づいてみると、クラスの女子生徒たちが4,5人いた。ノブコたちだった。
「先生、おはようございます。
大丈夫だよ。私達がちゃんと連れていくからね。
先生が、チエちゃんを誘拐しないように、私達で守ろうって決めていたの・・・おどろいた?
だって先生が力ずくでチエちゃんを連れ出したら、誘拐犯に間違えられちゃうでしょ。」
嬉しかった。
本当はどうしようかと不安だったが、ノブコたちの思いにその緊張がほぐれ、涙がこみ上げてきた。
チエが玄関から出て来た。母親も寄り添っていた。
不安そうな表情のチエだったが、ノブコたちが来てくれてうれしそうだった。
「ノブコ、ありがとう。だったら最初からいってくれよ」
ほっとした思いと、嬉しさで半べそ状態だった。
あとは、チエが心から喜べる体験をしてほしいという思いだけだった。
私を無視した態度で、チエとノブコたちは学校に向かった。
「神様、チエに勇気を与えてください。」
心の中で祈った。