「先生は、タツジくんが事件を起こした時は、ずいぶん一生懸命だったみたいだね。
あのタツジくんが、教師に感謝するなんて不思議なくらい、
先生に助けて貰ったって嬉しそうに話していた。
タツジくんも普段はつっぱってばかりだけど、さすがに少年院に行くのは嫌だったみたい。
先輩から、少年院の凄さを聞かされていたから、本当に助かったって喜んでいたの。
自分のことを本気で怒ってくれたり、心配してくれた先生は初めてだってさ。」
ノブコの話し方は、うらやましさを感じているようだった。
「先生はなぜ、本気でタツジくんを怒ったの?
なぜ私達に対しては、本気じゃないの?
変だよ。タツジくんにだけ本気なんてさ。」
ノブコが完全に怒っている。
「私達は、確かに教師を舐めてかかっているけどさ。
教師だって本当にいい加減なんだもん。
私達生徒を馬鹿にしているし、偏差値で見られているのがよくわかるもん。偏差値で私達を判断しているでしょ。
本気で生徒のことなんか考えているなんて思えないし。」
はっとした。
職員室や学年室でも頻繁に生徒たちを偏差値で見ている会話が存在している。
偏差値の高い子はいい子。低い子は、問題を起こす子。
ノブコはいじめ事件でも、成績で決めつけられた悲しい過去があった。
「私は、怒る先生が嫌だとかいっているんじゃないよ。
私達生徒に対して、本気かどうかなの。
タツジくんがうらやましいって、みんなが言っていた。
私もそうだよ。
本当にタツジくんは、うれしそうに自慢していたの。
先生に本気で怒られ、本気で手紙を書いてもらい、本気で心配して家庭訪問をしてもらえたこと。
それなのに、私達の目の前にいる先生は、別人だから。
普段から、本気出してよ。」
ノブコが本気で怒っていた。
タツジとのことを思い出していた。
感情的ではあったが、確かに本気で殴った。
本気でタツジの優しさを伝えようと裁判所に手紙を書いた。
本気でタツジが愛される子になって欲しくて彼に話をした。
そう、確かに本気だった。
本気かぁ。
生徒たちが期待しているのは、本気かどうかなんだ。
本気になることになんのテクニックにいらない。