この絵を見るとぎょっとする人が多いと思うが、しかしその割にこの人物は能天気な顔をしていると思わないだろうか。

しかも何か閃いたのだろうか、頭の後ろには後光がさしているように見える。

その上このポーズをとっていて、呑気としか思えない。

 

この能天気さには理由がある。

 

「吊るされた」というと強制されたように聞こえるが、実はこの人物、自分から進んで吊るされに行ったという説があるのだ。

「ペテロの殉教」という話があるのをご存じだろうか?

この男はずばりそのペテロ本人だ、という説が濃厚で、要するに吊るされることによって得るものがあまりにも大きい、と彼が踏んだということなのだ。

損して得取れというのとは次元が違うが、そのように覚えると解釈がしやすいと思う。

 

そして吊るされていることによって視界が真っ逆さまになるから、それによって何かを閃いたのかもしれないし、或いは誰かの身代わりに進んで吊るされに行ったことから、彼には聖なる力が与えられるだろう、ということなのかもしれない。

 

いずれにしても凡人にはなかなか出来ないことをやってのけたわけで、このカードが正位置で出た場合には「奉仕」という言葉が真っ先に浮かぶだろうと思う。

 

通常イメージする「磔」というと、手と足を釘で打たれて十字の木に張り付けられている状態なのだが、この人はなぜか靴も履いているし、その上これは磔刑ではなく絞首刑用の台のように見える。

しかしこの台の木は芽吹いていて、どこかから養分を取っているように見える。ここで処刑されているように見えるカードのすべては、実は茶番なのかもしれない。

彼は吊るされてはいるが殺されるわけでも、これが本当の刑罰ではないことも分かっていて、もしかしたら処刑する側にも忖度をしているのかもしれないし、そっちが本題なのかもしれないのだ。

 

というあらゆる可能性を、ここに描かれている彼のように閃かせることが

このカードを読む最大の秘訣かもしれない。