これからの話は、

物語とは言えどもちょっと公開を躊躇してます。


捉え方によっては一般の、
男女の恋愛物語になりそうな気がするからです。


聖母マリアのイメージが崩れる可能性もあります。


でもよく考えてください。


マリアも私たちと同じ普通の人間として、
また同じ肉体を持った女性として生まれています。


一人の年頃の女性が、
一人の男性を愛する事は何ら不自然ではないはず。


むしろ神の法則に照らし合わせても、
人間として当たり前な感情かと思います。


ただし通常の恋愛と違って、
大いなる苦しみを伴った恋愛であった事でしょう。


以下文中のジブリィとアズリィが言うように、
歴史上最も苦悩に満ちた男女なのかもしれません。。

 

 

天使の導き


マリアとエリサベトが教会で主に祈りを捧げている時、
ラビであるレメクが二人の背後で祈っていた。


マリアは振り返ってレメクを見た時、
あまりの神々しさで全身に衝撃が走った。


丸太を寄せ集めてできた教会の隙間から、
一筋の木漏れ日がレメクの横顔を照らしていた。


ひざまずき祈っているレメクのその姿は、
まるで神と同化したような完璧な美しさだった。


『人の祈ってる姿で感動したのは初めて…』


マリアの時間が止まり、
エリサベトが祈り終わるまで彼の姿に釘付けになった。


レメクも祈り終わると、
エリサベトに声を掛けた。


「おはようございます、
この方は…前に話されていた親戚のマリアさんですね。」


エリサベトが答える。


「はい、ナザレから6日間掛かって…」


マリアには、
エリサベトのマリアを紹介する言葉が耳に入らない程、
緊張して顔が真っ赤になっていた。


胸が高鳴り、
何とも言えない感情が湧き起こった。


『私、いったいどうしたのかしら…』


今まで多くの男性が声を掛けて来たものの、
マリアにとっては初めての心の動揺だった。


その日、結局マリアは一言もレメクと言葉を交わすことなく、
教会を後にした。


これがレメクとの最初の出会いである。


さて翌朝も、
マリアは教会に行きたいとエリサベトに願うが、
エリサベトに急な用事が入り、
マリア一人で山里の丘にあるユダの教会に向かう。


既に何人か礼拝に来ていたが、
レメクはマリアに気が付くとそばに近寄って来た。


「おはようございます、マリアさん。
今日も良い天気ですね。」


『はい…、
昨日は失礼いたしました。』


緊張して顔は下を向いていたが、
始めて話す事ができてマリアはほっとした。


「教会の裏手に鳥の巣があるのですが、
ご覧になりますか?」


『えっ、鳥…?、
は、はい、見たいです!』


笑みを浮かべながらレメクは一旦入口を出て、
教会の裏にマリアを案内する。


小さな畑を横目で見ながら裏に回ると、
1本の木にいくつかの巣箱が枝に掛けられていた。


昨日初めて教会に訪れた時、
エリサベトとマリアの二人を歓迎した時の小鳥もいた。


くちばしが真っ赤で、
蒼い羽が混じっているツガイ(夫婦)だった。


小鳥は二人に気付くと、
また歓迎するかのように巣箱から飛び出し、
二人の頭上に飛び回る。


その1羽がレメクの肩に乗り、
するともう1羽がマリアの肩に乗った。


「ははは、どうも私たちは祝福されたようですね。
鳥はいつも夫婦で行動するんですよ。」


マリアは微笑みながら手を差し伸べると、
肩に乗った小鳥が飛び移った。


よく見ると、
とても美しい小鳥だった。


『お名前はあるのですか?…』


そうマリアがレメクに尋ねた瞬間、
いきなり天から大きな声が鳴り響く。


私の名はジブリィ…

私の名はアズリィ…


天からの二つの声に驚いたマリアとレメクは、
思わずその場でしゃがみ込み、
声のする空を見上げた。


一瞬、天に眩いばかりの光が二つ光ったかと思ったら、
それは雲の形から、
徐々に二人の天使の姿に変わった。


全身から眩い光を放ちながら、
白く大きな翼をゆっくりはばたかせ、
二人をじっと見つめている。


マリアは驚き、
思わずレメクに抱きつく。


レメクはマリアを守るように、
しっかりと抱き寄せた。


ジブリィは優しい顔立ちをしていた。


アズリィは少しキッとした厳しい顔つきだった。


「いったい何が…」


すると、
ジブリィが威厳のある声でゆっくり口を開いた。


あなたたちは大いなる目的と使命を持って、
神がこの地に、
そしてこの時代に使わせたものです。


その目的とは、
エバの罪を祓い修正すると共に、
これからの大いなる計画を果たす為です。


今度はアズリィが口を開く。


その使命とは、
人類を本来の神の子としての、
『生命の木』に目覚めさせるためである。


神とは何ぞや?…愛である。


その子とは何ぞや?…
やはり愛そのものなのだ。


愛によってのみ、
全ての生命は創造された事を知るが良い。


人々の心に真実の愛を目覚めさせよ、
その為に、
神はそなたたちを《父母》として選んだ。


「えっ?…私たちが?…父母?…」


ジブリィが口を開く。


そうです、
偉大なる魂が、
あなたたちの子として生まれることを計画されたのです。


「私たち二人に、
結婚しろ…という事ですか?」


この世で言う結婚ではありません。


偉大なる方の、
父母になる為の結婚です。


「???…」


アズリィが口を開く。


様々な受難と試練がそなたたちを襲うであろう。


世界の夫婦の中で、
最も辛く、
最も寂しく、
最も苦悩に満ちた男女になるであろう。

 

そなたたちは一生、
この世で言う幸福を手に入れられないであろう。


だが、負けてはならぬ。


これに負けたら、
全ての準備が意味のないものとなってしまうのだ。


天上界で交わした約束を今こそ果たせ。

そなたたちは幸福を手に入れることはできない。

 

だが永遠の幸福を、
時を越えて人々に与える事ができるのだ。


震える二人にジブリィが優しく口を開く。


不安がる事も恐れる事もないのですよ。


私たちに委ねなさい。


神がそのように導いて下さいます。


レメク、
これからあなたは一生ラビとして独身を貫きなさい。


他を妻として娶ってはなりません。


そして陰から、
マリアとその子を守りなさい。


そしてマリア、
あなたは偉大なる魂の子を宿すのです。


その子を信じなさい。


そして、
これからレメクの言う通りにしなさい。


全ての準備は私たちが行います…。

 

 

…そうして二人の天使は雲に消えて行った。

 

「いったい何が起きたのか…」


畏れ多く震える二人は、
ただそこにしゃがみ込み、
抱き合ったまま天を見上げるしかなかった。


ツガイの小鳥はさっきから忙しく、
楽しそうに飛び回っていた。。