この「人間の大地」シリーズそのものと、プラムディヤに関する出来事、その読者たちの様子を見ていると、やはり、インドネシア社会の暗黒面に目を向けざるを得ない。
ブル島の監獄から帰還したプラムディヤは、自宅軟禁状態で、遠出もままならず、警察の監視下にあることが、
月刊誌「太陽」の1987年12月号に掲載された「幽閉作家会見記」にレポートされている。足立倫行によるそのレポートに、プラムディヤの苦難が紹介されている。彼がインタビューの6年前にインドネシア大学で講演をしたところ、彼を招いた大学生4人が退学処分に、仲介した人物は4ヶ月勾留されたという。
プラムディヤが弾圧されたのは、共産主義系文化団体に関わっていたからだ、という説がある。
私は反共産主義の人間であるが、その私がこの「人間の大地」シリーズを読んでも、これが共産主義賛美には思えなかった。そういう目的のために書かれたプロパガンダ小説ではない。
これ以外にも、彼の小説が発禁になった、それを読んでいた大学生が逮捕された。だが、そのコピーは広く流通して読まれているという話がある。これは、インドネシア国民の、自らの国やその歴史について知りたいという知的欲求の現れであり、かつ、プラムディヤの物語が面白いことの証明ではないか。そして、20世紀末の、インドネシアの言論の自由がどういうものかを表している例だと思う。
プラムディヤはノーベル文学賞の候補とも言われたらしいが、それは叶わなかった。
だが、多くの国でも、この小説が好評を持って迎えられた。
私もその内容に驚いたが、これを読んでも、インドネシアに対し嫌悪感を持つことはなかった。
ただ単に、小説として面白い、辛い内容ではあるが、人間の力強さと希望を感じられる良作だと考えている。
可能なら、もっと多くの日本人にこれを読んでもらいたいものだ。
続く