かすかに霧がかかる運河。静かなジャグナー森林の東側に位置するこの場所に円陣を組んだ集団とその中心に男が2人。
「アイアス君、どうしてこんなことになっているか説明してくれるかな・・・?。」
橙色の銃を腰から抜きながら中心にいる男の1人がつぶやく。布や帽子などで顔隠した者達に囲まれているのはまぎれもなくデュランダル兄弟だった。2人は背中を合わせなんとか周りと均衡状態を保っているが、いつこの男達に襲われてもおかしくない状況である。
「ふん、来てくれと頼んだ覚えはない。それにこんな奴らは俺だけで十分だ。」
アイアスは剣を抜き盾を構えた。
砂丘から2日ほどかけてサンドリア王国へ戻りメルと別れたマイルスは、彼女から受け取った少しの謝礼と保存食を冒険者居住区のモーグリに預けお金になる話を得るために王国中の知り合いに会いに行った。元々散歩が好きで子供の時から両親のように自分の面倒を見てくれた人達が国内には多くいて、神殿騎士時代も他の兵士が嫌がるような小さな依頼をマイルスは積極的に受けていたので町人の信頼度はとても高かった。
「あら、マイルスじゃないか!久しぶりだねぇ。」
出て行ったとは言え名家の長男を呼び捨てできるのは古くから仲の良かった証拠で、雑貨屋の店主もその一人である。
「お久しぶりです、ターミラさん。お元気そうでなによりですよ。」
世間話をしながらターミラにお金の事を相談すると簡単なおつかいに加え、何か困っている事があったらマイルスに依頼するよう言っておくと彼女は笑いながら答えた。マイルスの笑顔癖もほとんどがこの人の影響であるが、あまり知られてはいない。ターミラのおつかいは店で売る旅装のための素材を集めるというものだったがサンドリア周辺は庭みたいなものであるマイルスにとってそれほど時間はかからなかった。その後も店を手伝いながら依頼をこなし、3日がたとうとしていた。
「おはよう、マイルス。お客さんが来ているよ。」
マイルスは冒険者である事を忘れるが如く、店のアルバイトより早く出勤してしまうほど雑貨屋にお世話になっていた。今朝の客人はサンドリアの兵士であった。
「おはようございます、マイルス=デュランダル様ですね?アイアス様が未だに城に戻らないのですが、何か知りませんでしょうか。」
兵士から今回のアイアスに与えられた作戦を聞いたマイルスは不審に思った。弟の属する”王国騎士団”の事はくわしくないが、小隊には王国へ連絡する兵士が必ずつき定期的に状況を報告する決まりだったからだ。
「それはおかしいですね。ターミラさん、今日は仕事を休ませていただきます。あいつは私の事を嫌ってますが・・・、大事な弟ですから。」
そう言うとマイルスは店を後にジャグナー森林へ向かうことにした。
「盗賊団のアジトがありそうな場所を探したら案の定でしたよ。森林は広いですがこの”ギルド桟橋”でもない限り危険が多いですからね。」
マイルスは周りに警戒しつつ銃に弾を込め、鞄から7色のカードを取り出した。
「小隊にこの盗賊団”銀狼”の手下が混じってたとはな。深い霧に状して入れ替わったんだろう・・・、そして俺たちをここへおびき寄せるために迷ったふりをして誘導したんだ。おかげで食料も尽きて敵の術中、腹がたつぜ。」
アイアスが小言を言っているとしびれを切らした盗賊達が一斉に襲い掛かってきた。
「私が援護します。君の騎士道を見せてください、アイアス!。」
マイルスは急所は狙わず次々に下半身を撃ち抜き、男達の進撃を遅れさせている。アイアスは身軽に敵の攻撃をかわしながら1つの動作で何人もの敵を薙ぎ払う。多対一の戦闘によっぽど慣れているのだろうとマイルスは思った。彼自身も近づく相手を突剣であしらい確実に弾丸と”クイックドロー”と呼ばれる技で大群を吹き飛ばし、焼き払い、時に眠らせ・・・、圧倒的な実力を見せている。
「はっ!なにが援護だよ。昔より上達してるじゃねぇか。」
アイアスは嫌味を言いながらもどこか嬉しそうな顔をしている。いくら数十人でかかったとはいえ、2人はまるでダンスを踊るかのように舞い、盗賊達を瞬く間に一掃した。
「ふぅ・・・。なんとかなったな。」
アイアスはその場に座り込んだ。この脇腹からは血がにじんでいる。
「アイアス!その傷は・・・。」
「ふん、ここへおびき寄せられ不意打ちを受けた時に仲間をかばってな。あいつらは”魔行符”を使って逃げたがこれを使うには集中力がいる。だから俺はここに留まってたってわけだ。なさけないだろ?。」
アイアスは痛みを堪えながら無理やりに笑顔を作ってみせた。
「・・・・そんなことはありませんよ。貴方は小隊長として立派な働きをしました。」
マイルスは鞄から薬品を取り出し弟の手当てを始めた。アイアスもはじめは嫌がっていたが冒険者の経験が長いマイルスの治療は的確ですぐに止血された。その姿を見てアイアスは小声で、
「なぁ・・・兄貴。俺はあんたを誤解していたよ。家を出てただ自由気ままに楽して生きているんだと思っていた。だがそれは間違いだったんだな・・・。マイルス=デュランダルの騎士道は今も生きていた。・・・たまには帰ってこいよ。俺が居場所を取り戻しておくからよ・・・。」
涙を流すアイアスに、マイルスは彼の肩をたたきにっこりと微笑んだ。
桟橋の木々の間から差し込む光が、2人の”騎士”を明るく照らした。