静けさが漂うロンフォール、しとしとと小雨の降るラテーヌ高原を通り、2人はバルクレム砂丘を目指す。道中で何度か獣人や好戦的な魔物達に襲われたが、マイルスの放つ弾丸とメルの剣技のまえに次々と倒れていった。高原もあと半分といったところで日も沈んできたので比較的安全そうな場所にキャンプを張り、夜を明けるのを待つことにした。
「メルさん、朝ですよ。」
日も昇り始め静かな高原の一画にマイルスの声が響く。
「・・・・もぅ・・・少しぃ・・・。」
しかしメルはまったく起きようとしない。あははっと笑いながらもマイルスは呆れている。だが幼少の頃から寝起きの悪い弟を起こしてきた彼にとっては意識がある分文字通り朝飯前の仕事であった。
「ふぅ・・・弾に込めしは炎霊の力、ファイアショット!。」
ドンっという爆音が空目掛けて響き渡り、鳥が木々から一斉に飛び立つ。
「わぁ!。」
「さっ、食事を済ませたら出発しますよ。」
マイルスは干し肉を食べながらメルににっこりと微笑んだ。
砂丘へ着く頃には日も昇りきり、2人はさっそく試験の合格のために動くことにした。
「さて、たしかイザシオさんの試験は”蟹の腹甲”と”蜻蛉の腹虫”と”死者の頭蓋”を集める事でしたよね。何から始めましょうか。」
マイルスは地図を見ながら淡々と話を進める。メルも男の歩幅になんとかついていきながら
「待ってくださいよ~クルタダさん!私は一応女の子なんですからね・・・。蟹の腹甲はなんとか一人で入手できましたから、あと2つですね。」
2人は砂丘中を駆け回り”フライ族”を倒していく。腹虫自体が希少で戦闘によって傷がつく事もあるためかなかなか見つける事ができないでいた。たびたびキャンプを張っているゴブリン達に狩りの邪魔をされつつも2人は懸命に敵を倒し続けた。イザシオの試験は体力・運・基本的な力など絶妙なバランスを問われることで有名だった。
夕方に差し掛かかろうとした時、メルが叫び声をあげる。一瞬の気の緩みからか倒したと思っていたフライ族の放った毒液が直撃してしまったのだ。これはまずい、そう思ったマイルスはメルをかつぎ上げると同時にある事に気がつく。腹虫だ。それを鞄に放り込むと男は砂丘に隣接する町”セルビナ”へ走る。
町の宿屋でメルの解毒を済ませ、ベッドの横に座ったマイルスは安堵のため息をついた。するとメルが小声で
「・・・ごめんなさい。せっかく手助けをしてくれているのに私ったら・・・。」
「いえいえ、気にしないでください。それに貴女が倒した相手から腹虫を入手できましたし。今夜はゆっくり休んでくださいね。」
マイルスはそう言うと部屋をでていった。もうすっかり日も暮れ、町の船着場の光だけが闇を照らしている。
朝になりすっかり町は活気に満ち、外から聞こえる漁師や冒険者達の声でメルは目を覚ました。部屋には彼女の荷物と赤いシャポーを引っかけたレイピアが壁に立てかけられているだけで”クルタダ”の姿はない。その時宿屋の入り口から大声が聞こえた。驚いたメルは声の方へ急いでむかうとそこにはボロボロになった彼が座っていた。宿屋の店主や野次馬の影からメルに気がついたマイルスは微笑んで彼女に袋を手渡した。
「いやぁ、昨夜砂丘で頭蓋を入手してそろそろ戻ろうと思っていたら普通の2回りは大きいフライ族に出会ってしまいましてね。とても私が勝てる相手ではなかったので、なんとか町まで逃げ帰ってきたんですよ。」
マイルスの活躍もあり無事試験に合格したメルは宿屋に戻ってきた。しかし部屋は彼女の荷物があるだけで静かだった。メルはお礼もまだ言えてないのにと店主に男の行方を聞き慌ててセルビナを後にした。まだ出て行ってからそんなに時間は経っていなかったためメルは辺りを見渡しながらラテーヌ高原の方を目指す。すると海岸の壊れた船の影に彼の姿を見つけた。
「クルタダさん!お礼も言わせてくれないなんてあんまりですよ!それに怪我まで・・・。」
「おっと、見つかってしまいましたか・・・。少し考え事があって。本当の事を言ったほうがいいのでしょうね。」
メルはなんのことかわかっておらず首を傾げている。
「実は・・・、私の名前はマイルス=デュランダル。”護りのバスタード家”とは対をなすデュランダル家の者です。今は家を捨て冒険者として暮らしていますけど。バスタード唯一の後継者は養子にとった女の子とは聞いていましたが、あなただったのですね。」
マイルスの言葉にメルは驚いた。サンドリア出身者なら誰でも知っている有名人と一緒に旅をしていたのだ。
「あっあなたがマイルスさん・・・。信じられない・・・。」
「名などどうでも良いのです。それよりも貴女がなぜ今こんなところまで来ようとしたのか気になったのですよ。高原は雨が降りやすく、砂丘は最も暑くなるこの時期に、ね。」
笑いながら続けるマイルスにメルは隣に座って口を開いた。
「・・・・もうすぐ騎士登用試験が行われるんです。知っていますよね?年に一度しかないアレです。私はそれにどうしても受かりたいのです。父の意志を継ぐために。だからサポートスキルが必要になったんです。」
メルの真っ直ぐな目にマイルスは何かを確信した。そして鞄の中の”あの剣”を取り出してみせた。
「では・・・、この剣をあなたに託しましょう。私はもう騎士ではない身ですから。」
彼女は目を丸くした。デュランダルの宝剣は価値もつけられずこの世に1本しかない。マイルスがその事を知らないはずがない、そう思ったのだ。
「我が剣と”バスタードの盾”に誓って、立派な”騎士”になってくださいね。メル=バスタード。」
マイルスから受け取った剣の刀身が陽の光に輝き、辺りは静かな波の音だけに包まれた。