入り江に響く声。
「登りつめてこい、高みまでな。」
アトルガン皇国。この国とジュノの交易が開始されてから約一年が経とうとしていた。傭兵会社の関係や蛮族から国を守るということで、ジュノにいた冒険者達は海を超え拠点をアトルガン白門におく人が多くいた。
「痛てて。」
活気あふれる小国内を一人の暗黒騎士が傷を抑えながら歩く。熟練した冒険者達が皇国を囲む大森林や火山、洞窟などで強い敵を求め力をつけるなか、こうして周りになじめず一人で経験をつむ冒険者の姿も珍しくはなかった。この男はサンドリア出身のエルヴァーンであったが王国騎士の登用試験に落ち、ひらすらに暗黒騎士の道を進んできていた。
「くそ・・・。どいつもこいつも暗黒騎士を毛嫌いして・・・。」
ブツブツと文句を言いながら居住区へ向かう途中、白門の方でドンっと爆発音が鳴り響いた。驚いた男は疲れているのにもかかわらず音のほうへ走っていった。
煙があがっているところへ着くと青い装束を身にまとったもの達と軽装な5人組が対峙していた。どうやら皇国に仕える「不滅隊」が海猫党のコルセア達を捕らえようとしているらしい。すると、帽子かぶったコルセアが口を開いた。
「不滅隊か・・・。いまはお前たちにかまってる時間はないんだ。海鳥の西翼で落ち合おう!。」
そう言いながら何かを地面へ叩きつけると辺りを突然光が覆う。視界がもどったときにはもうコルセア達の姿はなかった。
「閃光玉かぁ!やっぱりコルセアはかっこいいなぁ!。」
近くにいた子供がつぶやいた。
男はモグハウスで休息をとり、騒ぎが治まった頃合いをみて「茶屋シャラトト」へ足をのばした。身を削って戦う彼にとってここで飲むアルザビコーヒーはアトルガン地方へ渡ってきた以来、もっとも心を落ち着かせる物であった。いつものようにコーヒーと暗黒騎士の風貌には不釣合いなお菓子シュトラッチを食べながら日が沈むのを楽しんでいると、店の奥から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「どうして・・・・けなんだよ・・・・さん。」
さきほどの騒ぎのときに近くにいた子供の声だ。どうやら誰かともめているらしい。
「あ、おいっ。まちなさい!」
と言いながら、茶屋の店主がとびだした男の子を追いかけるように奥からでてきた。店主が困り果てた顔をしているので男は声をかけた。茶屋へ通うようになって何度か会話をしたことがあっただけだが、店の重い空気に耐えられないのと今の喧嘩がさきほどの事件と何か関係してるのではと思い、男は話しかけた。
「なにかあったんですか?」
当然なにもない訳はないのだが、男はそっけない顔をわざと作って店主に聞いた。店主は少し戸惑いながらも
「実はさっきの騒ぎのコルセア達は皇国へ捕まった私の息子を助けにきたんです。さっきのがその弟でして・・・。あいつには兄がコルセアということを隠していたのですが・・・、なにせ海賊に憧れちまってる息子に兄の事を話すのも気が引けましてね。なんで兄ちゃんだけと怒鳴られてしまいましたよ。」
男は困った店主の顔を見かねてこう切り出した。
「そうでしたか。それでしたら自分が二人の様子を見てきましょうか。報酬は・・・、シュトラッチ1週間分でどうでしょう。」
店主は男の言葉に一瞬あっ気にとられたがぜひにと”アラパゴ暗礁域”までの簡単な地図を書き記した。
男が腰をあげ武器と地図を取り、出発しようとすると
「あ、まだ名前も教えていただいてませんでしたね。」
店主が聞くと、男は振り向きながら微笑んで答えた。
「マイルス=デュランダル。騎士の名家を捨てたきまぐれのエルヴァーンです。」