お立ち寄り下さりありがとうございます😊

今回は平安時代の『夜這い』のリアルです(笑)


私が、長くなるのを嫌って説明を省いていましたが
やはり入れました。下に書いてます。


第八段大進生昌の家

大進(だいじん/中宮職の三等官)生昌(なりまさ/平生昌)の家に、中宮(定子)様がいらっしゃるというので、東の門を四本柱の門に作り変えて、そこから中宮様の神輿はお入りになる。北の門から女房たちの牛車も「まだ警護の武士がいないから入れるだろう」と思って、髪の乱れた人もたいして手入れもせず、車を建物に寄せて降りるからと思って気にしないでいたところ、檳榔毛(びろうげ)の車などは、門が小さいから、つかえて入ることができないので、例によって敷物を敷いて降りなければならないので、実に憎らしく腹立たしいけれども、どうしようもない。


殿上人や地下の役人たちも、陣屋のそばに立って見てるのもひどく癪にさわる。 中宮様の御前に行って、先程のことを申し上げると「ここでだって人が見ないことがあるの。どうしてそんなに気を許したの」 とお笑いになる。「でも、ここでは私達を見慣れていますから、きちんとした格好をしてたりしたら、かえって驚く人もいるでしょう」「それにしても、これほどの家で、車が入らない門があるかしら。見えたら笑ってやるわ」 などと言っている時「これを差し上げて下さい」と言って生昌が中宮用の硯などを御簾の中にさし入れる。


「まあ、あなたってずいぶんひどい人ね。どうしてあの門を狭く造ってお住みなの?」と言うと生昌は笑って「 家の程度や身の程に合わせているのです」と答える。「でも門だけを高く造った人もいたのよ」 と言うと「ああ怖い」 と驚いて「それは于定国(うていこく)の故事のことではないですか。年功を積んだ進士(漢文の専門家)などでなかったら、うかがってもわからないことです。私はたまたま漢学の道に入りましたから、これくらいのことは理解できるのですが」 と言う。「あなたのおっしゃる『道』というのもたいしたことなさそうね。筵道を敷いてあっても、みな穴に落ちて大騒ぎでしたよ」と言うと「雨が降りましたので、そんなことになったのでしょう。 いやあこんな答え方では、また何か言われそうですね。失礼します」と言って立ち去った。「どうしたの?生昌がひどく怖がっていたじゃない」とお尋ねになる。「なんでもありません。車が入らなかったことを言ったのでございます」 と申し上げて局に下がった。


 同じ局に住む若い女房たちと一緒に眠たいので皆寝てしまった。局は東の対屋の西の廂の間で、北に続いているが、その北の襖障子には掛け金がなかったのを、それも確かめなかった。生昌はこの家の主人だから、それを知っていて襖を開けた。妙にしわがれた騒々しい声で「お伺いしてもいいですか、お伺いしてもいいですか」 と何度も言う声で目がさめて見ると、几帳の後ろに立ててある灯台の光が明るく照らしている。襖障子を五寸ほど開けて言っていた。ひどくおかしい。


全く。こういう好色めいたことは決してしない人なのに、中宮様が自分の家にいらっしゃったというので、むやみに勝手気ままなことをしているのだろうと思うと実におかしい。そばにいる人を揺すって起こして「あれを見て。見たことがない人がいるみたい」 と言うと頭を持ち上げて向こうを見て、ひどく笑う。「あれは誰よ、厚かましい」と言うと「いえ、家の主人としてご相談したいことがあるのです」と言うので「門のことなら申し上げましたが『襖を開けて』 なんて申し上げたでしょうか」 と言うと「そのこともお話ししましょう。そちらに行ってもよろしいですか?」 と言うので「みっともないったらないわねえ。お入りになれるわけないでしょう」と言って笑ったのがわかったのか「若い人がいらっしゃったのですね」 と言って襖を閉めて去ったのを、後で皆で大笑い。 


「襖を開けたのならただ入ってくればいい。『そちらに行ってもよろしいですか?』 なんて言われて『いいですよ』なんて誰が言うものか」おかしくてたまらない。翌朝、中宮様の御前に参上して申し上げると、 「そんな浮いた噂は聞かなかったのにねえ。昨夜の門のことに感心して行ったのでしょう。かわいそうに、生真面目な人をいじめたりしたら気の毒よ」 と言ってお笑いになる。ちょっと用事が途絶えた時に「大進が是非お話したいと言っている」と言うのをお聞きになり「またどんなことを言って笑われようというのかしら?」とおっしゃるのもまたおもしろい。「行って聞きなさい」とおっしゃるのでわざわざ出て行くと、 「先夜の門のことを中納言(生昌の兄、平惟仲)に話しましたら、とても感心されて『ぜひ適当な機会にゆっくりお会いしてお話をしたり伺ったりしたい』と申していました」 と言って他に話があるわけでもない。


「先夜訪ねてきたことを話すのかしら?」と胸がどきどきしたけれど「そのうちゆっくりお部屋に伺いましょう」 と言って立ち去るので宮様の所に戻ると「ところでなんだったの?」とおっしゃるので生昌が申したことをこれこれと申し上げると「わざわざ取り次がせて、呼び出すようなことではないわね。たまたま端近とか局などにいる時に言えばいいのに」 と言って女房が笑うので「自分が 『優れている』と思っている人(惟仲)があなたを褒めたので〈嬉しく思うだろう〉 と思って知らせに来たのでしょう」 とおっしゃるご様子がとても立派だ。


※追記
定子は出産をする為に生昌の邸へ行きました。本来は実家へ帰るところ、父は亡くなり、兄は流罪されて行く所がなく、妃なのに、茅葺き屋根の身分が低い生昌の家に行きました。しかも生昌は兄が流罪に至る密告をした本人。だから清少納言は笑いながらも辛辣な事を生昌に言うし、笑い者にしました。
こういう事情が分かると、定子の振る舞いは立派だし、悲しいんです。

最後まで読んでいただいて本当にありがとうございました😊