汚損型ヤクザと渡り合った7日間 | 奥村顕のワールドプリズム Ken Okumura's WORLD PRISM

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汚損型ヤクザと渡り合った7日間

 

 

私の実体験をお話しします。排水管が詰まったことをきっかけに、水回りの業者から脅迫を受けた挙げ句、保険金の不正請求の主犯にされそうになりました。その業者は汚物を武器にする汚損型ヤクザとも言うべき存在で、話を次々にすり替えることで私を翻弄し、意のままに操ろうとしてきました。

 

私は賃貸マンションに居住しています。オーナーは外国の方で、直接お会いしたことはありません。私とオーナーの方の媒介は、日本にある不動産会社が行っています。水回りはキッチンの流し台の排水がトイレの排水と合流し、さらにシャワー付きのバスタブの排水と合流して、排水管に下ってゆく構造になっています。トイレとバスタブはユニットバス形式です。ある金曜日の夜、バスタブの先の排水管に詰まりが発生し、流し台・トイレ・バスタブの全てから、排水が流せない状況となりました。

 

次の日、すなわち土曜日の午前、私は不動産会社に連絡し、水回りの業者が午後1時ごろに派遣されて来ることになりました。実際には午後4時半ごろに男性1名で到着しました。詰まりの箇所から考えて、どこの水を流しても汚水が溢れる懸念があることは事前に伝えていましたが、業者は私が止めるのも顧みずトイレの水を2、3回に渡って流しました。バスタブ内を含むユニットバス内は汚水で満たされ、ユニットバスの外に溢れる直前の水位となりました。

 

作業を手伝うように言われたので、私はバスタブの縁を足場に自宅のラバーカップを使ってバスタブの排水口を抑えました。業者は自分で持ってきたローポンプという道具で作業をしている様子でした。2人とも汚水に触れないように不自然な姿勢を取りました。しばらく続けても効果は見られませんでした。業者はいったんユニットバスの外へ出て、私にも出るように促しました。私はバスタブの縁からユニットバスの外に飛び移りました。

 

その後、持ち場を交代しましたが、やはり効果が見られませんでした。業者が外へ飛び移る際に転倒し、汚水の一部がユニットバスの外へと飛び散りました。それによって汚れた部分の床の張り替えが必要だと、業者は言い出しました。私は後で拭いておくから構わないと言ったのですが、私は良くてもオーナーへの責任があるので張り替えなければならないと言うのです。当然ながら、私の金銭的負担はないという話でした。

 

業者と私は排水管開通のための次の方法として、2日後の月曜日午前10時に4万5千円の高圧洗浄を実施することを申し合わせました。オーナー側と私の側の費用負担の割合が未定でしたので、高圧洗浄代金の一部として私から2万円を預けておき、後にその一部または全部を返金することを業者が提案しました。私はそれに応じました。私が2万円預けた代わりだと称して、業者は3万円するというローポンプをユニットバス内に残して行きました。

 

その日の夜に業者から電話がかかってきて、2万円のうち、なるべく多くの金額を返金できるようにしたいので、私の加入している保険会社に事故の報告をしてほしいと言いました。私は業者の言葉に従い、排水が居住スペースを汚損した旨の報告をその夜のうちに電話で行いました。

 

次の日は自室で、ユニットバスの掃除などをしました。この掃除にどんな意味があるのかと、いささか腹立たしくはありましたが、不動産会社が送ってきた業者を疑う気は、まだ起こりませんでした。その不動産会社は都心の一等地に本社ビルを構え、どう見ても立派な会社でした。

 

月曜日の午前10時には高圧洗浄が開始されるはずでしたが、作業の開始は延び延びにされました。午後には4万5千円の全額を私が負担してもいいから、高圧洗浄を早く始めてほしい旨を私から業者に伝え、火曜日の午前中に作業を実施するとの申し合わせをあらためて整えました。月曜日の夜に業者から入った電話では、高圧洗浄により汚水が居住スペースの広い範囲まで逆流する可能性があると言われたので、そうした事態は避けたいと伝えました。

 

人は刃物を恐れるように、汚物をも恐れています。今にして思えば、この業者は汚物を使って少しずつ私を脅迫しつつあったと言えます。汚物で人を脅すなど、まるで冗談のような話だと受け取られがちですが、そこにこそ業者のつけ入る隙があるのです。

 

火曜日も電話で業者から「何度も電話しているのにつながらない」と言われたり、「今、準備中だ」と言われたり、「体調が悪い」と言われたりして時間が過ぎていきました。業者は夕方遅くなってやって来ました。名前や事業者名を確認させてくれと私から要求しました。仮にここでは、中村という名前だったことにしておきましょう。事業者名の方はどこにでもありそうな名前で、会社の名前だかキャッチコピーだか分からないようなものでした。

 

私は次のように宣言しました。「これまでは不動産会社やオーナーが関係していたので、私の立場は曖昧でした。しかし、4万5千円の全額を私が払うことになったのだから、今後は消費者として振る舞います。」そう宣言した上で、高圧洗浄によって居住スペースが排水だらけになるような事態は受け入れられないと言いました。中村は激怒しました。「勘違いしてるんじゃねえ」などと暴言を浴びせ、「お前なんかいつでもブタ箱へ放り込める」と怒鳴り立てました。私は、相手が犯罪を犯していると思うなら、警察へ告発するべきだと言い返しました。もうこの仕事は取りやめにすると言うので、私はそれに同意しました。すると今度は、「お前が拒否ろうが何しようが、結局俺が来るんだからな。俺から逃げられると思うなよ。」と凄んできました。

 

激しいやり取りが続いた後、私は遂に根負けしてうなだれ、謝罪の言葉を述べました。中村の表情は温和なものに変わりました。高圧洗浄やトーラーよりもいい方法があると言うので、私はそのトーラーというのを試したいと言いましたが中村は同意せず、別の工事の話を始めました。床に点検口を作ったり壁に穴を穿ったりする方法で、オーナー側に金銭的な負担をしてもらい、保険も使えば、私の負担を少なくできると言いました。

 

その後、保険会社に書類の送付を依頼するようにと、中村から電話で指示がありました。中村からは私のためを思って準備している旨が繰り返し述べられています。私が保険会社に書類の送付を依頼した後、あらためて中村から電話があり、概ね30万円弱の保険金を請求すると告げられました。請求項目のひとつとして、カーペットの張り替えで10万円というのがありました。カーペットの張り替えをするのかと尋ねたところ、実際には張り替えないとの明確な返答がありました。実施されない作業を前提として保険金を請求することは、詐欺に当たる可能性があります。しかし一方では、火曜日に暴言を浴びたことで委縮し、私はまるで中村の飼い犬のような心理状態になっていました。

 

恐怖とは自分自身に対する脅しのことです。恐怖を植え付けてしまえば、あとは相手が勝手に怖がってくれます。悪事を働く人間からすれば、脅しの手間が省けるだけでなく、責任を回避しながら脅しの効果を手にすることができるわけです。私にとって幸いだったのは、保険会社から書類が届くまでの時間的なずれが存在したことです。冷静に考えれば分かることですが、私がいったん保険金の不正請求を行えば、中村はそれを材料としてさらに私を圧迫した可能性があります。「理屈と膏薬はどこへでも付く」という通り、脅しの材料となる論理は、いくらでも作り出せるのです。

 

排水管の詰まりについてインターネットで調べるにつけても、私は罪悪感にさいなまれました。中村の指示と異なる動きをしている自分は、なんて悪い人間なんだろうと感じていたわけです。しかし、犬の状態から抜け出すきっかけは意外にも早く訪れました。ある別の業者のサイトを読み込むうちに、中村も1度だけ言及したトーラーによる方法が、本当は有効ではないかと思えてきたのです。木曜日の午後、その業者に連絡して話を聞いたところ、2万5千円程度の作業で排水管が開通するとの感触を得ることができました。私はトーラー作業の予約をしました。

 

その業者は、金曜日の午後に到着しました。作業に先立って、中村が残していったローポンプを移動させようと業者の人が持ち上げたところ、怪訝そうな様子で「壊れています」と言いました。それも昨日や今日壊れたのではなく、見えない部分が錆びついていて使えないというのです。つまり中村は、作業をするふりをしていただけということになります。私が熱心に手伝っているのを見て、こいつならば騙せると考えたのかもしれません。しかし、壊れていないローポンプでも作業をしているふりはできたはずです。私が預かっている間に壊れたと称して、さらに圧力をかける目論見があったのでしょうか。トーラー作業は1時間程度で無事終了し、流し台・トイレ・バスタブの全てが使えるようになりました。排水管が詰まってから、ちょうど1週間が経過していました。

 

水が使えるようになると、急に精神的な自由を取り戻すことができました。人は自分では気づかないような要因で、心を縛られてしまいます。発展途上国では、水道や衛生設備が普及していない地域が少なくありません。それは単に不便だという問題にとどまらず、人の自由を根本的に奪ってしまう問題です。一部の経営者が劣悪な環境での労働を強いるのも、その方が相手を支配するのに好都合だからかもしれません。

 

話を戻しましょう。中村の振る舞いを見ていて感じたのは、自然に動いているように見えながら、多岐に渡るストーリーが最初から用意されていて、展開によってそれらを使い分けているようだということです。例えば、ユニットバスの外を汚したのが私だったならば、また別のストーリーが存在したのだろうと思います。私1人を脅すためにここまで周到な用意をするのは、割に合わないはずです。中村は私のことを何度か「佐藤さん」と呼びました。私の名前は佐藤ではありませんので、同時進行で圧迫を受けている人が他にもいて、その人が佐藤という名前だったのかもしれません。

 

汚損型ヤクザとも言うべき者が世の中に存在し、不当な方法で金銭を収奪していることは、世の中に広く知られるべきです。見えない所で苦しんでいる人は、決して少なくないのだろうと思います。

 

不動産会社がこの件にどう関わっていたのか、いくつかの仮説を立てることができますが、ここでは申し上げません。いずれにしても、まともではない方法で収奪された金銭が、まともな所に流れていくことはないでしょう。私が見て取ることができたのは、起こっていることのほんの一部なのだと思います。

 

(この記事では、Stefan KellerによるPixabayからの画像を使用しています)